アートディレクター 藤井賢二

デザインの力で、人々に笑顔を【第2回】

Part.2of 3

クリエイティブによるソーシャルグッドには、どんな可能性があるのだろう――。
シリーズ「ソーシャルグッドで社会を動かす」は、クリエイターによる、クリエイティブを手段とした社会貢献活動をご紹介する企画です。

記念すべき第1弾にご登場いただくのは、これまでにさまざまな商品・ファッション広告を手がけ、多くの広告賞を受賞してきたアートディレクター、藤井賢二さん。
本企画では、彼の国内外を問わないソーシャルグッドな取り組みを数回に分けてご紹介します。

第2回では、藤井さんが日本で行っている活動内容や、日本とアフリカでの取り組み方の違い、クリエイティブによるソーシャルグッドの展望などについて伺いました。

アフリカよりも踏み込んだ、日本でのソーシャルグッド

子どもたちの想像の可能性を広げたい

――前回はアフリカでのソーシャルグッドな活動について伺いましたが、日本ではどんな取り組みを?
最近だと、栃木県の「認定こども園さくら」という保育園でワークショップを行いました。アフリカのクレヨンプロジェクトを日本の子ども向けにアレンジしたものです。
前回お話した“白い小鳥の物語”と同じように、はじめに物語を読み聞かせて、最後のページをみんなで考えてもらうワークショップですね。

――どんな物語なんですか?
簡単に説明すると、人間に困ってしまった1匹のカモシカをどう助けるか?というストーリー。カモシカは害獣として人間にどんどん食べられて減っちゃうんですが、それをかわいそうに思った人間の子どもが1匹のカモシカを飼う。ただ、今度は害獣じゃない動物たちも病気や食料不足でどんどん減る。そしてついには村から動物がいなくなって、飼われている1匹のカモシカだけが残っちゃう。それを子どもたちの想像で助けてあげよう、という取り組みです。そうとう無茶ぶりですけど、子どもたちにはそこを考えてもらいました。
まずは子ども同士でディスカッションをしてもらい、コンセプトのようなものを決めてもらうんです。基本的に大人は関与しません。そのコンセプトに基づいた絵をみんなに描いてもらって、それらを組み合わせて最後の1ページをつくる。つまり子どもたちには、幸せに暮らすカモシカの姿をデザインしてもらうんですね。これってちゃんと考えていくと持続可能な社会をどうイメージしていくか、という大人でも難しい内容なんです。

――ちなみに、なぜカモシカなんですか?

ああ、これは保育園がある栃木の県獣がカモシカだからです。ちょっとした工夫なんですけど、できるだけその土地に関係のある要素を入れたいなと思っていて。
だから、たとえば海のある町でワークショップを開く機会があるとしたら、漁師さんのお話をつくるかもしれません。「じゃあ、これからこの漁師さんはどうなっていくか一緒に考えてみよう」という感じで。少しでもワークショップでできあがったものが自分ゴト化されるといいなと思っています。

――かなり完成度の高い絵に見えるんですが、これを子どもたちがつくったんですか?
最後の仕上がりは僕がデザインさせてもらっています。子どもたちがつくってくれたものを持ち帰って、デザインして、園長先生に届けて子どもたちにも見てもらう流れです。
実はこのワークショップ、僕なりに職業体験みたいな意味も込めているんです。みんなで一緒に絵を描きました、1枚の作品になりました、わーすごい。そういうのは想像できてしまうというか、そこで終わったら普通じゃないですか。だから僕が最後にデザイナーとして参加するんです。
デザインのプロとして関わるからには、当然レベルの高いものにしなくちゃいけないですよね。それを見せてあげることで、子どもたちの想像の枠も広がるんじゃないかなと。「僕たち私たちはこうつくったけど、あのおじさんが手を加えるとこうなるんだ」と思ってもらうことで、想像の可能性を広げてあげるというか。そういう意味を込めて、最後に僕が手を入れるんです。なんか図工や美術の授業だと、どものつくった作品に先生が最後に手を加えるとかあり得ないと思うんですけど、これは子どもたちの自己表現の作品ではなくて、課題解決を表現するビジュアルなので、その意図がより伝わりやすいカタチにデザインしているつもりです。

――藤井さんがデザインした絵を見た子どもたちの反応はどうでしたか?
このときは2つの班があって、2つの作品ができたんですけど、それぞれ違いましたね。
あとで園長先生から聞いた反応によると、男の子が多かったA班は「自分の絵がここにある!」とか「すげー!」と純粋に喜んでくれたみたいです。
一方で女の子が多かったB班では「いいね!」と言ってくれる子もいたみたいなんですけど、どうも違うと思った子が多かったらしくて(笑)。というのも、彼女たちはカモシカのお友達がたくさんやって来て、広々と暮らしている様子をイメージしてたみたいなんですが、僕がシュッとまとめちゃったので、狭そうに見えたみたいです(笑)。


子どもたちには外の世界を見てほしかった

――日本とアフリカではソーシャルグッドの目的が違ってくる気がするのですが、実際に活動されている藤井さんはどう考えていますか?
違うと思いますね。アフリカの子どもたちにとってはお絵描きをする時間、ワークショップをする時間そのものが意味のあることだと思うんです。外国からお客さんが来ること自体、彼らにとっては特別なことなんじゃないのかなと思いますね。
そういうことが安心してできる時間自体が幸せなことなんです。だから正直、“なぜするか”は重要じゃなくて、“すること”そのものが大切で、一番の目的なんですよね。
それに対して日本では、お絵描きは特別なことじゃない。やりたければいつでもきることなので、“なぜするか”まで踏み込んで考える必要があると思うんです。

――日本の保育園で行うソーシャルグッドには、具体的にどんな目的が?
僕がお付き合いさせていただいている保育園の園長先生たちは40、50代の方が多いんですけど、これからの時代に向けた新しい教育をすごく研究されてるんです。形式にとらわれずに、新しいもの、可能性を感じるものを積極的に取り入れる柔軟さがある。どもたちが興味を持てそうな題材ならどんどん与えてみようというか。

――そこで藤井さんが登場したわけですね。
ある園長先生が、こんなことをおっしゃってくださいました。
「藤井さんみたいな職業の大人がいること自体をどもたちに知ってほしいし、わせてみたい彼らは身近なものに影響を受けるから、の対象も多様性があったほうが選択肢が広がってよい」
そう言われて「お役にてるのであれば…」と思ってワークショップを始めました。

スマイルをデザインすることの意味の重さ

その場の笑顔ではなく、本当の笑顔を

――前回、Smile Design Laboの目的は「デザインで笑顔を与えること」と伺ったんですが、テーマが「笑顔」であることについて藤井さんはどう考えていますか?
それはSmile Design Laboという活動名が決まる頃まで話が遡るんですが、最初は反対したんですよ、「スマイルなんて簡単じゃん」「子どもを笑わせればいいんでしょ」と思ったから。
そもそもデザインで人を笑顔にすることは当たり前なんだから、それをプロジェクトにまでする必要はないと思ったんです。しかも「スマイルをデザインする」なんて、ソーシャルグッドな活動にしてはあまりにも内容を限定しすぎる気がして。

――でも、今は違うんですね。
はい、今は「人を笑顔にするのもそんなに簡単じゃねえぞ」と思うようになりました。前回、ソーシャルグッドな取り組みでは「解決してやろうと思うこと」じゃなくて「寄り添うこと」が大切という話をしましたが、その場の笑顔と本当の笑顔って、やっぱり違うんですよね。
誤解を恐れずにいえば、僕らが普段している仕事のなかにはその場の笑顔を生み出すためのデザインも多くあると思うんです。でも、ソーシャルな活動ではその瞬間だけじゃいけない。思い出せばまた笑顔になれるような、その後も心にずっと根づき続けるようなデザインでなければいけないんです。
表層の笑顔をつくるだけならただ「べろべろばー」とやっておけば笑うかもしれないけれど、そんなのはデザインじゃない。だから今は、“スマイルデザイン”という言葉にものすごく重い意味を感じますね。

――「スマイルをデザインする」、わかりやすけれど奥深い言葉ですね。
正直にいうと、はじめはダサいと思ってたんです(笑)。 でも今思えば、業界の流行りに乗っかってそれっぽい名前をつけるより、よっぽど伝わりやすいネーミングだと感じています。
田舎のおじいちゃんにも、外国の子どもにもわかる言葉。ありとあらゆる人たちに理解してもらえる言葉を掲げるというのは、一周回って悪くないなと思っています。取り組みに対する覚悟のようなものを示せている気もしますし。

クリエイティブを駆使したソーシャルグッドの展望

今はまだ、ライフワークの領域にある

――社会貢献やCSRが会社にとって当たり前の活動になりつつある今、クリエイター個人にもソーシャルな視点は必要だと思いますか?
世の中が求めていることであれば、どうしても意識しなくちゃいけない部分だとは思います。海外のデザイン賞の評価なんかを見ても、「どれだけ売れたか」より「どれだけ地球にやさしかったか」というソーシャルな視点にポイントが移ってきているので、日本の広告やデザイン系の業界もそっちに舵を切っていくでしょうね。
一昔前だったらセンスをギンギンに活かして作品をつくる、アーティスト然としたクリエイターが評価されてたじゃないですか。ファッション系の広告なんてまさにそれで、「今度は誰がどんなセンスを爆発させるんだろう?」とデザイナーならみんな期待してました。僕もそういうクリタイターのスタイルに憧れてたんですけど、今の時代、それでは通用しなくなってきたなと思います。ビジネスの世界ですらそうなので、ソーシャルグッドならなおさら。

――ソーシャルな視点が求められているなら、ソーシャルグッドな活動もビジネスになりそうな気がしますね。
お金儲けのシステムを考えたうえで経済を回しつつ、さらに世の中に立つことをしているわけなので、それがソーシャルグッドの理想形かもしれませんね。ただ、今の時代はまだまだその段階にはないと思っています。
というのも、今のソーシャルな取り組みって、どうしても自己犠牲の上に成り立つものだとか、ライスワークではなくライフワークとして捉えるのが一般的じゃないですか。
実際、学生の子が「ソーシャルなことをしたいんです」と言ってそういう取り組みをしている会社に入ったものの、ふたを開けてみればソーシャルグッドな活動なんて全体の10分の1でしかない、なんてこともあります。
僕たちのSmile Design Laboも雑誌なんかで紹介されると、詳しく知らない人たちから「世の中に立つ仕事をしてすごいですね」「それで飯が食えて羨ましいです」なんて言われるんです。そんなわけないじゃないですか(笑)。
だから今はまだ、ソーシャルだけでクリエイターをやれる状態じゃないんですよ。飯を食うためのライスワークとは切り分けて考えなければならない段階だと思います。

日本だからこそ、できることがある

――実際にビジネスとして成功したソーシャルグッドの例ってあるんですか?
海外でも日本でもソーシャルグッドの事例は年々増えてきていますし、そのなかにはビジネス的に評価できるものもあります。世の中のためになりつつ仕事として成立しているのは羨ましいなと思います。
でも昔からソーシャルグッドができる職業っていっぱいあるなと思っていて、たとえば活気ある街づくりを目指している政治家の方とか、環境に負荷をかけない農法で野菜をつくる農家の方とか。ソーシャルグッドが難しいといわれるのは、ようは僕らデザイナーという仕事で関わるのが難しいということだと思うんですよね。

――難しいと思うんですが、もし日本でデザイナーのソーシャルグッドがビジネスとして成立する可能性があるとすれば、どんな形になると思いますか?
まずデザイナーという肩書きにこだわらないほうがいいでしょうね。それだけで自分にできることを制限している気がします。デザイナーの職能が活かせる場合は活かせばよくて、なんでもかんでも「デザインで解決してやる!」なんて無理がありますしね。でもデザイナーの視点でいるからこそ見つけられる社会の問題点もあるなと思っていて、それっていうのはソーシャルグッドへのヒントだと思うんですよね。
あと、日本だと何でもかんでも出来上がっちゃってるので、僕自身、ソーシャルな取り組みをするなら環境が整っていない外国のほうがやりやすいんじゃないかと思ってました。
でも、先進国ならではの問題もあると気づいたんです。たとえば少子高齢化のような。見方を変えれば、日本は多くの国がまだ迎えていない問題に先に取り組める環境にあると思うんですよね。いろいろな方法が考えられると思うし、なかには難しいものもあると思うんですけど、ここでうまく問題を解決することができれば、他国にとってのいいモデルケースになるんじゃないかと。
外国に住む人々のことを想像しながら、日本からソーシャルな取り組みを展開する。そういう可能はある気がしています。

藤井賢二から若きクリエイターたちへ

――最後に、これからソーシャルグッドな活動に取り組みたいと考えている若いクリエイターたちに、メッセージをお願いします。
デザイナー向けのメッセージになっちゃうんですが、ソーシャルグッドにはどんどん取り組んでほしいなと思います。ただ、この思いには「いつまでもデザイナーでいられると思うなよ」という裏メッセージがあるんですけど(笑)。
今の日本にはデザイナーの肩書きを持っている人がけっこう多くいますよね。でもそれって、「ポスターをつくりたい」とか「雑誌をつくりたい」という需要があってこそなんです。需要が減れば、当然デザイナーがデザインできる場も少なくなっちゃうわけじゃないですか。
一方で、世の中の課題に向き合うソーシャルグッドな取り組みの需要は、これから先も永遠に存在する。何かをいい方向に持っていくモノづくりというのは、いつどんな時代でも必要とされるので、ソーシャルな取り組みができない人よりはできる人のほうが、ものをつくる機会に恵まれるはずなんです。
言われたオーダーに対してきれいにものをつくることも大切ですが、それしかできない人は、いずれ必要とされなくなってしまう気がするんです。
もちろん、何をどう始めたらいいのかわからない人もいると思いますが、それでもいいから最低限、「誰かの役に立つモノづくりをしたい」という姿勢でいてほしい。僕はそう思っています。

――ありがとうございました。

第3回につづく。

  • ソーシャルグッド
  • 藤井賢二
  • TAKI Smile Design Labo
    UPDATE:
    ソーシャルグッドで社会を動かす
    アートディレクター
    藤井賢二

    藤井 賢二 Kenji Fujii

    藤井賢二(ふじい・けんじ)
    1975年、愛知県出身。アートディレクター/グラフィックデザイナー。
    これまで多岐にわたる商品広告やファッション広告のアートディレクションを経験。
    所属するたき工房では制作部専任部長を務める。同社の社会貢献活動である「TAKI Smile Design Labo(スマイルデザインラボ)」の中心メンバーとして活動するほか、デザインによる復興支援など、さまざまなプロジェクトでアートディレクターとして活躍している。