編集者 山若マサヤ

「こんな人生、モウタクサンダ」と言いながら死にたい【後編】

Part.2of 2

クリエイティブの未来を担うのは、きっと、クリエイターの心を揺さぶるクリエイター――。
シリーズ「次代を創るプロフェッショナル」では、クリエイティブの世界でひときわ強い存在感を放つ、いま注目のつくり手たちをご紹介します。

今回ご登場いただくのは、「(必ずしも)旅に出ない」をコンセプトとした旅行雑誌『MOUTAKUSANDA!!! magazine』の編集長を務める山若マサヤさん。
本企画では、彼のヘンテコな方向へ突き進む姿勢や編集者としての魅力を、前後編に分けてご紹介します。

後編では、雑誌制作時の編集者としての関わり方やクリエイターとの関係性、『MOUTAKUSANDA!!! magazine』の今後の構想などについてお話を伺いました。

山若マサヤの制作スタイル

編集者のおもしろさは、“想像を飛び越えたもの”に出会えること

――『MOUTAKUSANDA!!! magazine』のコンテンツはすごくユニークですが、どのようにアイディアを生み出しているんですか?
アイディアはずっと考えてますね。散歩してるときに思いついたことを帰ってからWordにメモったりするんですけど、何十ページも延々と更新されていくんです。次の号の制作や、展示を行おうというタイミングでその長いメモを見て、手を入れてつくっていく感じです。ある程度溜まるまで時間はかかりますけどね。

――雑誌の企画はすべて山若さんが担当しているんですか?
『MOUTAKUSANDA!!! magazine』はそうですね。もちろん、写真やデザインは写真家やデザイナーの人たちにお願いしていますけど、編集は僕1人です。大変なこともありますけど、つらくはないです。多くの雑誌には編集長と編集者が何人かいて、それぞれの企画を合わせて1つの雑誌にしますけど、僕は1人でぜんぶつくります。そうすると、コンセプトや雑誌の目指す場所に向かってまっすぐ進めます。わけのわからないノイズみたいなものは少なくなるかもしれませんが、逆に1人の人間のなかにある“わけのわからなさ”はもっと出る気がしますね。

――具体的にどんな部分が大変ですか?
いっぱい人に連絡するのが大変です。僕、割と人見知りで人に会うのが苦手なんです。会社を辞めてすぐは“ハイ状態”だったのでよかったんですけどね。会ってしゃべるのは好きなんですが、会いに行くまでは緊張しますね……。
ただ、編集者だけでは何もつくれないから、いろいろな人とやり取りしてますよ。一日中メールを打ったり電話したりして、ぜんぶ断れたりしたときは「何やってたんだろう」って気持ちになっちゃうこともありますけど。でも、いろいろな人と関わってつくることで、自分が思い描いていた絵を飛び越えるものがつくれるというところが、編集のおもしろさの1つだと思うんです。「こういう写真が入って、こういうレイアウトで」と想定していたものより、ずっといいものが送られてきたときは、本当に興奮しますね。

「なぜそのクリエイターと一緒につくるのか」を大事にしている

――よりよいクリエイティビティを発揮してもらうためにクリエイターをコントロールすることはありますか?
ないですね。コントロールするよりも、ゴール地点をしっかり共有することが大事だなと思ってます。共有したら、あとはもらったものをどうするかに注力したいなと。
それと、「なぜこの人とこれをやりたいのか」という理由を大事にしてますね。打ち合わせの段階で本人に伝えることもあるし、伝えないこともあるんですけど、自分のなかではしっかり理由を持つようにしています。そうすると、企画と人が決まった時点である程度のものはすでに出来上がっている状態になるんですよね。あとはコミュニケーションを取りながら方向性さえ共有できれば、絶対におもしろいものが生まれるんです。もちろん予想外のものでも構いません。むしろそのほうが「こう来たか」というおもしろさがあります。

――編集者という仕事へのこだわりがあれば教えてください。
前回お話ししたような「クリエイターとのあいだに線を引かずにものをつくりたい」という部分と、さっきの「クリエイターをコントロールせずに方向性を共有することで企画をつくり上げていく」という部分がこだわりになるんでしょうかね。上から指示を出す人でも、クリエイターにお任せする人でもなくて、クリエイターと同じ目線でものづくりをするスタイルが好きで、そういう編集者を目指しているんだと思います。

 

山若マサヤとクリエイターの関係

「ありがたい」の一言しかない

――デザイナーやフォトグラファーの方など、制作に関わるクリエイターとはどういう関係性なんですか?
『MOUTAKUSANDA!!! magazine』のWebを担当しているデザイナーの武田くんは、大学の同級生なんです。彼も工学部出身で、当時は電子回路とかを研究していましたが、今はなぜかデザインとプログラミングを仕事にしています。彼はもともと大学時代の遊び仲間みたいな感じなんです。ほかに一緒に作品をつくってくれる人たちは、日常のなかで自然に知り合った人が多いです。ノリが合う人が多いんですよね。
フォトグラファーの七咲友梨さんの場合は、「彼女がまだ撮ったことのないものを撮ってほしい」と思っています。例えば、ポートレートの撮影なら彼女の得意分野だし、仕上がりはばっちりでしょう。けど、この雑誌では少し意外なものをどう撮るのか見てみたいというか、実験的なことをして遊べる場として使ってくれたらいいなと思ってます。

七咲友梨さんが撮影した写真を使用したページ①

七咲友梨さんが撮影した写真を使用したページ②

――『MOUTAKUSANDA!!! magazine』はいろいろなクリエイター力が合わさって出来上がる雑誌だと思うんですが、皆さんはどんな想いで協力してくれていると思いますか?
「おもしろそうだからやってみよう」みたいなノリで参加してくれてるといいな、と思いますけど、僕からは「ありがたい」の一言しかないですね。ぜんぶ売れてやっと制作費が回収できるような状況で一緒にやってくれているので。
でも、僕らの雑誌は商業的ではないにせよ一応売り物ではあるので、仕事としてそれなりのギャランティーが発生して当然だとも考えられます。真剣な遊びのクリエイションの場だと思ってもらえればうれしいんですけど、その辺りは難しいですね。“見返り”と表現したら語弊があるかもしれないですが、この雑誌に関わることで発見が生まれたり、コミュニティが盛り上がっていったりするような感じにできたらいいですよね。


山若マサヤがマネタイズを考えない理由

『MOUTAKUSANDA!!! magazine』は自分たちの城

――前回も少しお伺いしましたが、マネタイズは考えていないんですよね?
はい、雑誌単体ではトントンでいいと思ってます。それよりも、この雑誌をつくること、ほかのクリエイターたちと関わることで、クリエイター同士の“新たなつながり”ができたらいいなと。『MOUTAKUSANDA!!! magazine』を見てくれた方が仕事を依頼してくれることもあるんですよ。
僕個人に関していえば、この雑誌をつくったことで「こういうノリの本をつくってほしいです」という仕事をいただくことがありました。自分の作品を評価してもらったみたいで、やっぱりうれしかったですね。

――そういう意味でいえば、山若さんはクリエイターというよりもアーティスト寄りの編集者なのかもしれないですね。
どうでしょう。ただ、作家性を持ってつくっていきたいとは思っています。クライアントワークも好きですけど、この雑誌に関しては純粋にものづくりを楽しむための、自分たちの城なんです。
こういうものをおもしろがってくれるクライアントやパートナーとコラボレーションして、僕自身もぜんぜん経験したことがないようなことができたら楽しそうですよね。

――第2号(ISSUE1)をつくるときはクラウドファンディングを利用したそうですが、どんな経緯で使うことになったんですか?
僕、幻冬舎の雑誌の編集部にいた時期もあって、その雑誌に出ていた読者モデルの女の子がクラウドファンディングのディレクターをやっているんです。で、2冊目を出すのを知ってくれていて、「何かやりましょうよ」と声をかけてくれたんですよ。それで「じゃあやってみよう」という流れですね。
クラウドファンディングは資金調達の面でも非常に助かったんですけど、それよりもPRとしての役割のほうが圧倒的に大きかったです。ぜんぜん知らない人に雑誌を知ってもらえるきっかけになったし、ほかのWebマガジンに取り上げてもらえたりもしたので。あとは「作品を見てください」みたいな感じでメールをくれるクリエイターもいました。実際に制作をお願いした人もいるんですよ。

 

“毒と楽園”に込めた山若マサヤの狙い

閉鎖的な世界をクルーズできる雑誌にしたい

――現在制作中の第3号(ISSUE2)のテーマは“毒と楽園”だそうですが、これはどんな経緯で生まれたんですか?
少しコンセプチュアルな雑誌をつくってみたかったんですよね。「毒々しい、禍々しい雑誌をつくりたいな」と考えていた一方で、「楽園をテーマにした号もおもしろい」と思っていました。それで、「じゃあ合わせたらいいんじゃない?」と。
毒と楽園は相容れないように見えますけど、ユートピアとディストピアのように表裏一体なんですよね。それは1つの家族のようなコミュニティかもしれない。つまり、そのなかでのみ醸成されるマナーやルール、美学みたいなものを持った閉鎖的な、人によっては毒かもしれないし楽園かもしれないっていう世界です。第3号は、そうした閉鎖的な世界をクルーズすることで、自分のバックグラウンドとの差異を楽しめる本にしたいと思ってます。

――現時点ですでに第4号の構想があったりするんですか?
ぜんぜんないです。ないんですけど、第3号をつくりながら、なんとなく次につながる火種のようなものは出てきていますね。まだちゃんと固まってはいないんですけど。

――1冊はどれくらいの期間をかけてつくるんですか?
第1号は3カ月くらい、第2号は4、5カ月くらいかかりました。だんだん延びていっていますね。第3号はつくり始めてからもう半年くらいたっているかもしれないです。そういう意味では考えることにかける時間はすごく長くなったかもしれません。内容は、よりおかしな方向に変化していっていると思うんですけど、もっと気軽にポンポン出してもいいんですかね。仲間が増えたらもっと身軽な媒体もつくりたいですね。

 

山若マサヤのこれから

コリン・ウィルソンはかっこいい

――目標とするクリエイターはいますか?
目標というと違うかもしれないですが、昔からコリン・ウィルソンっていうイギリス人の作家が好きで、憧れます。『アウトサイダー』っていう本を書いた人です。ニジンスキーやゴッホとか、いろいろなアーティストをアウトサイダー――社会や自我の枠組みから外れた人と定義して、彼らについて書いた本なんですけど。たしか彼が26歳くらいの頃にホームレスをしながら書いてベストセラーになったんですよ。そのあとオカルトとか殺人鬼とか、いろいろなテーマについて書きまくった人です。

――コリン・ウィルソンのどんなところがグッと来るんですか?
編集的な書き方ですね。生きた時代も場所も、やっていることもぜんぜん違う人たちを集めて、1つの論で結びつけていくんですよ。一人ひとりは孤独だったりするんですけど、この本を読むとその人たちがあたかも時空を超えたコミュニティの住人であるかのように、見えない系譜みたいなものがイメージされるんです。構成と文章によって新しい世界が立ち現れる感じに、すごく惹かれます。
コリン・ウィルソンは一貫して「いかに意識を拡大するか」をテーマにしていた気がします。これは僕が雑誌で目指している、認識を変換したり、ひっくり返したり、広げたりすることで、日常を捉える視点をおもしろくしたいっていうことと同じなんですよね。
あと、彼は知識量もすごいんです。本ではいろいろな文章が引用されているんですけど、一見関係ないように見えるもの同士をつなげてしまう感じがすごく編集的だなと。インターネットが普及した今の時代って、知っていることにあまり価値がないじゃないですか。知識や情報をいかにつなげるか、別の視点からいかに捉え直すかが重要になってきていると思うんですけど、彼はネットのない時代からそれをやっていたんですね。図書館で知識を自分の血肉にして、さらにそれを編集して、本のなかで紡ぐことで見えない世界を創出させた。そのやり口には本当にしびれます。しかも、元ホームレス。狂気と知性が同居した人は魅力的ですよね。

今、感覚が向かうほうへ

――5年後10年後、どんなクリエイターになっていたいですか?
いや、ないんですよね。先のことはあまり考えないんです。その通りにならないので。僕の周りには好き放題やっている40、50代の人がたくさんいるから、なんとかおもしろく生きていけるだろうと思っています。今は自分の感覚が向かうほうに行くことが大切なんじゃないですかね。
それと、過去のこともなるべく考えないようにしてます。昔話は楽しいかもしれないけど、クリエイティブじゃない感じがするので。いや、縄文時代の感覚に想いを馳せるとかならいいんですけど、「5年前はこうだった」とか「俺の若い頃はなぁ」みたいな、おっさんが昔話をするような感じになって、停滞したくないというか。過去や未来に制限されず、新鮮な感覚を持っていられたらいいなと思いますね。

 

山若マサヤの相棒

人と違う感性を持つために、顔を上げる

――編集者として愛用している道具やツールはありますか?
ガラケーです。一応仕事のツールなのかな? スマホだといろいろな通知が来るじゃないですか。でもこれ、電話かメールが来たときしか鳴らないので、感覚的にすごく時間が増えた気がするんですよ。スマホと2台持ちしているわけじゃなくて、ガラケーだけです。歩いているときに企画を考えたりするんですけど、そういう自分のなかの余白みたいなものを残すためにガラケーはいいんですよ。
この前、代々木上原の長い踏切につかまったんですけど、1分過ぎたくらいから、みんな下を向いてスマホをいじり始めるんですよね。僕は下を向いてもメールを見るくらいしかやることがないから、スマホを操作している人を観察したり、「なぜこんなにたくさん電車が来るのか?」みたいなことを考えたりしていました。そういう余計なことがアイディアにつながったりするんですよね。
さっき、今はインターネットで何でも調べられる時代だと言いましたけど、だからこそ自分自身でそんなにたくさんの知識や情報を詰め込む必要はないのかなと思うんです。踏切が上がるまでSNSやネットニュースを流し読みするんじゃなくて、僕は顔を上げて、下を向いている人とは違う景色を見たい。そういった何気ないことが、オリジナルの感性につながるのかなと思います。

 

山若マサヤから若きクリエイターたちへ

――最後に、GOOD! CREATORの読者であるクリエイターたちにメッセージをお願いします。
じゃあ、編集的に人の言葉を引用しようと思います。『MOUTAKUSANDA!!! magazine』でインタビューしたリム・カーワイという映画監督がいて、映画をつくりながら世界を放浪している人なんですけど、彼が「1作目は絶対うまくいくから、やったほうがいい」と言っていました。「本気でやれば1作目は必ずかたちにできる。初めてはそれだけで特権だから」って。
僕自身が彼からもらったメッセージでもあるのですが、たしかにそのとおりだと思いましたね。始めることより続けることのほうが難しいし、おもしろい。僕の雑誌も1発目は温かく迎えられて、ありがたいことに2発目も受け入れてもらえたけれど、次の3発目から目新しさを感じてもらえなくなる気もしています。雑誌は本来、コロコロ変わらないものですけど、僕は変えることが好きなので、どこかで「名前ごと変えてやろう」とか考えています。これからもどんどん裏切っていきたいですね。

――ありがとうございました。

    UPDATE:
    次代を創るプロフェッショナル
    編集者
    山若マサヤ

    山若 マサヤ Masaya Yamawaka

    山若マサヤ(やまわか・まさや)
    1985年生まれ。石川県小松市出身。
    神戸大学工学部卒業後、主婦の友社に入社。女性誌、書籍編集部で経験を積み2012年独立。現在はフリーランスの編集者・ライターとして書籍、ムック本、雑誌等出版物の構成、編集、執筆を行いながら、『MOUTAKUSANDA!!! Magazine』の編集長を務める。