イラストレーター・グラフィックデザイナー 齋藤州一

第3回 制作の流れ

実際の仕事を通して

Part.3of 6

「もっと自分を知ってほしい」「もっと作品を見てほしい」
クリエイターたちが抱くそんな思いを、自らの言葉で自由に発信してもらう場。
それが、連載企画“クリエイターズノート”です。

イラストレーター・グラフィックデザイナーである齋藤州一さんによるクリエイターズノート。
第3回は、齋藤さんが実際に携わった装画のお仕事を例に、ラフの作成から完成に至るまで、作品制作の流れを紹介してくれました。

作品のご紹介

今回は制作について、実際の仕事を例にとって少しだけご紹介したいと思います。
ご紹介するのは2017年1月に発売された『約束』(河出書房新社)というチェコ文学の翻訳書の装画です。イジー・クラトフヴィル著 阿部賢一訳。
戦後のチェコで起こる復讐劇を描いたノワール小説で、判型は四六変形判、304ページの上製本。装丁は川名潤さんです。

イジー・クラトフヴィル著 阿部賢一訳『約束』(河出書房新社)

ラフから描き込みまで

流れとしてはまず仕事のご依頼をいただき、ゲラを送っていただきます。ゲラというのは本の体裁にレイアウトされた紙面見本のことですね。編集部からB4用紙の束がドンっと送られてくるのですが、それを打ち合わせの日まで読み、大体の内容を把握してイメージを膨らませておきます。その打ち合わせの中で編集さんとデザイナーさんとイラストレーターとで小説についての認識を共有していくのですが、今回はデザイナーさんに「こんなイメージでどうでしょう」と大まかな構成を考えていただき、それに沿って作っていく方向で決まりました。

そうと決まれば次はラフの作成です。キーワードは「地下室」「とにかく暗く」「怪しく」という“どんよりしたもの”なので、それが伝わるような「怖さ」を意識して描いていきました。まずはラフのラフのようなざっくりとしたものを描いて、必要な要素などを確認します。

ラフのラフ

それでいけそうだなと思ったら、実際の下絵になるくらいのきれいなラフを細いシャープペンシルで描きます。私の場合はよく背景と人物を別に描いて、後からPC上で合成させています。その方が後からでもサイズの調整が利くんですよね。

背景と人物を別々に描く

合成してラフ完成

今回はありがたいことにちょっとした所を調整するだけでほぼ問題なしだったので、すぐ実制作に入りました。まずはAdobe Illustratorで下絵をなぞっていき、全体の形をとります。多少歪んでいてもあまり気にせず進めていきます。それも自分なりの味かなということで。

Adobe Illustratorで下絵をなぞる

Illustratorで作った絵をPhotoshopに持っていき、それに影やハイライトをつけていきます。ブラシツールにはよく使うザラザラ感のあるブラシや鉛筆風のブラシをカスタマイズして保存してあるので、それを使って一気に筆を入れていきます。ちなみにIllustrator、Photoshopの作業はどちらもペンタブレットを使用して描いてます。

ノイズをかけ、黒と白で陰影をつける

さらに細かい部分に陰影を付ける

さらに鉛筆風のブラシで細い線の陰影を加える

そして完成へ

ひと通り完成させて編集者さん、デザイナーさんレベルではOKだったのですが、翻訳者の方にご確認いただいたところ、「当時のチェコは共産主義下だったためここまでおしゃれではないので地味にしてください」と指摘をいただき、スーツやベスト、ネクタイを変更して製品版に落ち着きました。当たり前の話ですが、フィクションとはいえ、見栄えだけではなくその本の顔として、内容の世界感や雰囲気をしっかりと伝えるのが重要なんだなと痛感しました。

スーツやネクタイの色などを修正して完成

表4の帯で隠れるところに男性らしき倒れた人の足がちらっと見えるように描いたのですが、打ち合わせの段階ではその案はなかったんです。ラフを描く時に「帯をめくってそういうのが見えたらぞっとするだろうな」と思って提案しました。それが採用された時はとても嬉しかったですね。
これからも要望通りの仕事をするのはもちろんですが、何か自分なりのアイデアを忍ばせて喜んでもらえるようなことができたらいいなと思います。

第4回につづく。

    UPDATE:
    クリエイターズノート
    イラストレーター・グラフィックデザイナー
    齋藤州一

    齋藤 州一 Shuichi Saito

    齋藤州一(さいとう・しゅういち)
    グラフィックデザイナー/イラストレーター。
    1980年生まれ。出版社のインハウスデザイナーを経て2013年フリーに。グラフィックデザイン・イラストレーションなど、グラフィック表現の分野で制作活動を行う。
    著書『動物と植物の素材集』(インプレス)。
    sososo graphics代表。