milieu編集長 塩谷舞

「豊かなクリエイティブを発信する」【後編】

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クリエイティブの未来を担うのは、きっと、クリエイターの心を揺さぶるクリエイター――。
シリーズ「次代を創るプロフェッショナル」では、クリエイティブの世界でひときわ強い存在感を放つ、いま注目のつくり手たちをご紹介します。

今回ご登場いただくのは、「THE BAKE MAGAZINE」の編集長であり、オピニオンメディア「milieu」を立ち上げた、しおたんこと塩谷舞さん。本企画では“エモくバズらせる”執筆を続ける塩谷舞さんの魅力と、空と水のデザインが目を引くオピニオンメディア「milieu」について、前後編に分けてご紹介します。

後編では、独立に踏み切った頃の仕事や、オピニオンメディア「milieu」にかける想いについて伺いました。

独立、そしてバズを生み出す、塩谷舞の奔走

「バズらせて」のヒットを打ちに行く、助っ人外国人みたいだった

ciotan.com

――会社の外へと飛び出した背景には、どのような経験があったのでしょうか?
会社の仕事とは関係なく、ブログに書いた「面白法人カヤックの、1社だけの合同説明会はやはり面白かった。」というイベントレポートのブログがバズったときがあって。一晩で5万PVまで伸びて、突然色んな人から問い合わせが来ました。私がカヤックさんの取り組みに感動して書いたものだったので、相手も喜んでくれるし、誰も不幸にならないバズが起こったんです。それで、「ブログってすごい!」と感動して、イベントレポートを立て続けに書いていました。その結果どんどんフォロワーが増えるし、「記事広告として書いてほしい」という依頼も増えてきて。自分の名前を出した記事が拡散されて、それを何度も積み重ねていくと、どんどんヒットを打ちやすくなるんです。

そして入社前から「3年経ったら独立しよう」と考えていたことと、個人に来る仕事のオファーが増えたこともあり、社内の引き継ぎなどを終えた2015年の5月に独立しました。ただそれまで「CINRAの広報として」奔走していたのに辞めちゃったので、同業の方からはかなりびっくりされたのですが……。

――それくらい、活躍なさっていたんですね。独立後はどんな挑戦をしていきましたか?
まずはお菓子のスタートアップである株式会社BAKEから「THE BAKE MAGAZINE」の編集長をお願いできないか、というオファーをいただいて、いまでも週1回BAKEに行っています。編集に加えて、SNS運用のアドバイスをしたり、PRのアイディアを出したりしています。他にはオウンドメディアの運用の相談を受けたり、記事広告を書いたりしていますね。フリーになってから1年くらいまでは、「バズらせてって言われたところに行ってヒットを打つ」助っ人外国人みたいな仕事が多かったです。あとはなぜか小室哲哉さんに作詞提供するというぶっ飛んだお仕事もありましたね……。

ひとまず、フリーになって最初の1年は、カメレオンみたいに真面目系の記事からほっこり系、ネタ系まで、色んなものを書いていましたね。あちこちでバズを依頼されて、日々、打ち上げ花火を乱発! という状況でした。

塩谷舞の“逆転”

打ち上げ花火じゃなくて、自分の世界観に連れて来る

――まさに“しおたんが書くとバズる”ですね。
いや、バズらないときもあるんですけどね……。でも、そんなお仕事を1年間やっていると、毎回数字を出すために自分を切り売りしてるような感覚になってきて。そんなとき、読者の方から「バズりそうなネタ」ではなく「塩谷さんの意見や見解を読みたい」という声をいただいたんです。だから「もう逆転しないといけないな」って。いままでクライアントの世界に私がおじゃましてたけど、これからは私の世界観の中にクライアントを招いていかなくちゃ、って。

毎回花火を上げるのは精神的にも疲れるので、“自分の庭”をつくって、ちゃんとそこの手入れをして、信頼されるような人間になりたい。その上でお客さんに来てもらわないと続かない……と思ったんです。

――2017年1月に立ち上げた「milieu」は、そういう価値観を持っているんですね。
はい。これまで自分のブランドを確立しよう、という志向が1ミリもなかったんですけど、「ブランディング」がちゃんと必要なフェーズだと思って、milieuのデザイン、写真や文体のトンマナをつくっていきました。「ここに紹介されると、誇らしい」と思ってもらえるような世界観を構築していきたかったんです。ネットで大切だといわれる「親近感」を少し排除して、「距離感」をつくることを考えました。milieuを読んでいる間だけでも、少しだけ特別な気持ちになってほしいんです。

ただ、サイトデザインがオシャレすぎて文章が読みにくい、となってしまうと本末転倒です。文字は薄くて小さいほうがオシャレに見えやすいのですが、デザイナーさんと何度も相談して、可読性が保てる大きさ・色にしています。SNSボタンだけは「オシャレ」とは反するのですが、そこはあえて数字を出しています。やっぱり数字が出ていると、みんなシェアしやすいみたいです。記事のPV数も、自分への戒めとして出すようにしてます。ひとりで運営していると目標の数字も設定せずにサボッてしまうので、「外の目」に見守られることでサボらないようにしています(笑)。

――どういうメディアを目指していますか?
若者が本を読まない、ニュースを見ないといわれていますが、ネットではみんな文字を読んでいるし、Twitterでは一定数の人にニュースが届いているんです。だからネットメディアには未来が詰まっていると思うのですが、どうしても「数値」を目標にすると、読む側のニーズに合わせて民度を下げていってしまうこともある。まあ私も「ネコかわいい」「美女セクシー」って記事はついつい読んじゃうのですが、せっかく新しいものを自分で立ち上げるので、ちょっと違うフィールドを目指しています。

これまで「この雑誌は面白い」と選んでいたように、「塩谷の書く記事は面白い」とフォローしてもらいたい。自分自身が雑誌のような存在になりたいんです。PVを伸ばそうと思えば、下品なことや、過激なことを書けば当然伸びます。でも、そういう手法で数字を伸ばすよりも、自分の本心を友達に伝えるように発信して1万人に読んでもらえるのだったら、私は後者の方が「価値がある」と思っているので。だから、記事広告であったとしても、本心じゃないことは絶対に書かない。これは徹底しています。

塩谷舞の、読者へのアプローチ

コアな読者じゃない人にも、振り向いてもらえるように

――価値観を確立している印象ですが、逆にハードルを下げたいことはありますか?
コアな読者は大切にしたい一方で、「初めて読む人」にもわかりやすい記事を心がけています。著名人のインタビューだと、どうしてもその業界の専門用語が多くなりがちですが、それだと私の本来の目的である「広める」ことができない。

だから客観的に事実を解説する……というよりも、「どんな人で、どんな気持ちで作品が生まれていて、それを私がどう感じたのか」という「感情」ベースの記事を書いています。私の主観が多いことには賛否両論があるのですが、やっぱり「感情」は誰しもが持っている共通言語です。共通言語があれば、ほかの業界の話であっても、関心を抱いてくれる可能性があります。

情報を正しく伝達するメディアや、アートや音楽などの業界専門メディアは既に立派なものがあります。私はmilieuを1人で運営して、小回りが効くからこそ、もっともっと「個人的な考え」を軸にやっていきたい。この方法だとあまりスケールを大きくはできないのですが、自分が一番やりがいを感じる方法で、いまは小さく運営しています。

塩谷舞が大切にする“デザインの力”

milieuを読む人に、優しい気持ちになってほしい

――milieuはひと目見てきれいな空と水のイメージに惹かれますが、デザインにはどんな意図を込めましたか?
裏話なので、あまり明かす必要もないのですが……milieuを見た人に、優しい気持ちになってほしいな、という意図でデザインしています。

スマホで見てくれる読者が圧倒的に多いのですが、スマホサイトってデザインできる場所が限られていますよね。そこで背景に1つ工夫をしています。スクロールすると、夕暮れの空の色みたいにうっすら色が変わるようになっていて。これがとても好評で、読者の「感情のデザイン」に作用できてるかな? と思っています。

記事に載せる写真も、できる限り毎回毎回フォトグラファーさんに撮影してもらって。「炎上」の逆というか……「浄化」が裏テーマなので、水のような、青いトーンの写真が多めです。

――全体を通して心地いい見た目ですね。「milieu」という言葉そのものは、どういう意味でしょうか?
「ミリュー」ってなかなか読みづらいのですが、フランス語で「中心」、英語で「背景」や「環境」といった意味の単語です。
紹介するジャンルが「サブカルチャー」だと言われがちなのですが、どちらかというと、未来のスタンダード、つまり「中心」を担っていきたい。そして、そんなメインストリームの「背景」をしっかり残していきたい、という想いですね。

塩谷舞が描くこれから

盛り上げ役として、時代のスターをつくりたい

――今後の目標は?
milieuで1記事だけ、英語版もつくったのですが、これがなかなか難しくって。翻訳も、拡散も、なかなかうまくいきません。いまは日本の中では一定数の方々に読んでいただいていますが、世界にはつながらず、まるで鎖国状態です。私のスキル的にもテキスト表現での海外バズは難しいので、動画をつくったり、ちょっと試行錯誤していきたいですね。
ただ、あまり目標を「これだ!」と決めると、小回りが効かなくなるので……。いまも、milieuだけではなくイベントの企画やキュレーションをしたり、司会をしたり、ラジオでも話したり、色々です。目標を固めすぎると時代に乗りにくくなってしまうかも? という懸念があるんです。

好きなものを挙げるとすれば「歴史に残るようなクリエイティブ」や「時代をつくる人たち」です。だから、いまの時代や流行を俯瞰して、milieuでしっかり文脈を描いて、この時代を代表する作品やスターをここにアーカイブしていきたいです。

――目指したいな、と思うクリエイターはいますか?
あまり誰かを目標にしないようにしているのですが……唯一挙げるとすれば、マリー・クワントの生き方には、憧れがあります。彼女はミニスカートを世界中、それこそ日本のおばさま方にまで流行らせてしまった。若者の流行を的確に捉える嗅覚や商才があり、ツィギーという最高のモデルに、ヴィダル・サスーンという最高のスタイリストを味方にして、大きなうねりを生み出していった人です。18歳の頃、彼女の伝記を読んで本当に感動しました。

でもやっぱり「こうなりたい」という理想の人は、いまはあまりいないですね。誰かを信じるのではなく、自分の嗅覚をちゃんと信じて、スターになりうる人たちを見つけて、一緒に試行錯誤していきたいです。

塩谷舞の相棒

Twitterは欠かさずチェック

――愛用しているツールはありますか?
iPhoneですね。ひたすらにiPhone。いつもTwitter見てます。Twitterのリプライ欄がずっと更新され続けるのですが、それを浴びるように読んでいます(笑)。iPhoneがなくなったら生活できません……手放せないツールですね。シャワーを浴びているときと寝てるとき以外、ずっとです。
Twitterでは1日15回くらいつぶやきますが、あまり「つぶやこう!」と意識している訳ではないですね……。喜怒哀楽すべて、息を吐くようにツイートしてしまう…(笑)。

ただ、自分の主張をそのまま発信するぶんだけ、やはり反対意見は出てしまいます。もちろん落ち込むのですが……でも、誰もが自由に反対意見を言えるのがインターネットの良いところ。反対意見から考えさられることは本当に多いです。

――取材でいつも使っているツールは何でしょうか?
iPhoneとMacBook Airのみです。一眼レフを上手に扱えないので、カメラマンがいない場合は大体iPhoneで撮影して、VSCOで加工します。ボイスレコーダーは電池が切れたりメモリが足りなくなったりするので少し苦手です……。

取材後に全文テープ起こしするので、取材中は超感動したところだけをMacBook Airにメモっておきます。あとは話が盛り上がってる途中に、次に話したいトピックが思いついたらメモして、聞くのを忘れないようにしておきます。

――執筆する際のこだわりはありますか?
記事はほとんど、WordPressに直接書いてます。デザインも同時に確認したいのと、ミリューのWordPressが非常に書きやすくカスタマイズされているので……! あと、鬼のように辞書登録してあります。
たとえば「りんく」で
<a href=”URL”  target=”_blank”>
など。だから自分のMacBook Air以外だと作業効率が落ちまくりますね。

――仕事中や疲れたときのアイテムを教えてください。
体調が良いときにはレッドブル。悪いときにはオロナミンC。あとはマッサージ。うーん…もっと健康的な生活にシフトしたい、という希望は大いにあります。

塩谷舞から若きクリエイターたちへ

――最後に、GOOD! CREATORの読者であるクリエイターたちにメッセージをお願いします。
まだ私自身、絶賛迷い中でもありますが……。でも、ひとつだけ。milieuを立ち上げるまでは、あらゆる受託仕事をしていたので、一体何が自分の中心なのか、わからなくなってしまっていたんです。でも自分の感覚に忠実にmilieuをつくったら、自分のことが少しずつ理解できるようになってきた。これは、精神衛生にもとても良いんですよね。自分にとってmilieuは、「庭」であり「お守り」のような場所です。

だから、誰しも「自分の感覚が許すものだけを集めた場所」をつくっておけば、悩んだときはそこに立ち帰れるんじゃないかな、と思います。自分が守りたいものがあると、自然と頭は冴えるし、戦闘力も上がります。その「場所」は、アート作品でも、Instagramでも、ブログでも、リアルな場所でも良いのですが……お金にならなくても、仕事の時間を割いてでも、そういう場所を持つことは大切だと思います。

――ありがとうございました。

    UPDATE:
    次代を創るプロフェッショナル
    milieu編集長
    塩谷舞

    塩谷 舞 Mai Shiotani

    塩谷舞(しおたに・まい)
    「milieu」 編集長。1988年大阪・千里生まれ。京都市立芸術大学 美術学部 総合芸術学科卒業。大学時代にアートマガジンSHAKE ART!を創刊、展覧会のキュレーションやメディア運営を行う。2012年に株式会社CINRAに入社、Webディレクター・PRを経て2015年からフリーランス。執筆・司会業などを行う。THE BAKE MAGAZINE編集長、DemoDay.Tokyoオーガナイザーなども兼任。インターネットが大好き。