イラストレーター・グラフィックデザイナー 齋藤州一

第4回 クリエイティブ再考

アイデアと物事の捉え方、影響を受けたものについて

Part.4of 6

「もっと自分を知ってほしい」「もっと作品を見てほしい」
クリエイターたちが抱くそんな思いを、自らの言葉で自由に発信してもらう場。
それが、連載企画“クリエイターズノート”です。

イラストレーター・グラフィックデザイナーである齋藤州一さんによるクリエイターズノート。
第4回では、クリエイターとしての視点が変わった大学時代の経験と、今の齋藤さんにクリエイティブのヒントを与えている(かもしれない)アイテムを紹介してくれました。

アイデアの源泉とは

前回は実際の制作の流れを追っていきましたが、「では齋藤のアイデアの源泉とはなんぞや?」というお題を今回いただいたのです。
そう改めて問われて思い返すとなかなかに言葉にするのが難しい。なんというかたぶん、アイデアはそれまで歩んだ人生のあらゆる記憶や経験――見たり、読んだり、聴いたり、嗅いだり、味わったり、触ったり等々のぼんやりとした断片が、これから作り出そうとする何かと結びついて生まれるものだからなのかもと思いました。

そう考えると、日頃からなんでも偏見なく見聞きするようにはしているかもしれません。偏見なく――そういった視点で物事を見られるようになったのは、大学時代に得た経験がきっかけです。

ある講義があったのですが、ボロボロの消しゴムを見て1分間にどれだけポジティブな形容詞やワードを箇条書きで挙げられるかというものがありました。「汚い」とかではなく「年季が入っている」みたいに、良いイメージに言い換えるんですね。

使い古しの消しゴムにどんな形容詞を入れるか

その講義の心は、デザイナーはどんなものでもポジティブなイメージに転換させてクライアントにプレゼンしなければならないから、ということでした。その時「なるほど!」と思ったんです。それまではどういう風にかっこいい形を作るか。どうきれいにレイアウトするかということばかりを考えていました。でもものづくりにとってもっと大事なのは、そのものが持つ長所を引き出して、そのイメージを見る側に対してどう魅力的に伝えるか、ということなんだなと感じたんです。もちろんきれいに見せるのも完成度を高める上で大事なことではありますが、本当に美しいものって内面から滲み出るものがありますよね。
ともあれその講義は目からウロコでした。どちらかというとそれまでは斜に構えた考え方だったのですが、それ以来なるべく物事をポジティブに捉えるように考えを改めました。

物事をポジティブに見る訓練をしていると、「あ、これってこういうことなんだ」とか、「今までこう見てたけど実はこうかもしれない」とか視点が増えて、もっと自分の世界を広げていきたくなるんですよね。考え方次第なんですけど、自分の周りをどれだけ良い方向に捉えられるかによって、周りから得られる情報量が違う気がします。そういうのが一つ一つ積み重なってアイデアの元になるのかもしれませんね。

影響を受けたもの

では自分は実際にこれまで何を見聞きしてきただろうと思う訳です。何に影響を受けてきたかなと思うといくつか思い浮かぶものがありました。

絵本

小さい頃は福音館書店の絵本を親に定期購読してもらっていて、毎月のように読みふけっていました。中でも好きだったのがタイガー立石さんが描かれた絵本。ダリやエッシャーのような大胆でシュールでちょっと怪しい世界観なんですけど、読むたびに不思議な世界に入り込んでいましたね。ずっと実家に置いてあったんですけど津波でだめになってしまって。
今でも古書店などで当時の本を探しては購入し、新しい関連本が出ては購入したりして収集してます。“三つ子の魂百まで”と言いますが、小さい頃に読んだ絵本から得た影響はかなり大きいと思います。

タイガー立石の書籍コレクション

ゲーム

自分はちょうどファミコンが誕生した世代で、TVゲームとともに育ってきたといっても過言ではないです。ゲーム自体にはまるのはもちろんのこと、マリオやドラクエの絵を模写したり、このコラムの第一回の冒頭でも少し書いたのですが、小学生の頃はノートにオリジナルのマップやモンスターを描いてゲームの真似事をしたりしてました。

中でも『MOTHER』(任天堂)というシリーズが好きで、ビジュアル面だけではなく考え方やいろいろなことにおいてかなり影響を受けているのですが、ここでは長くなりそうなので割愛させていただきます(笑)。
ゲームはずっと続けていますが、今のゲームはもはや最新の技術が詰まったエンターテインメントですよね。映像に音楽にストーリーにテクノロジーに。たくさん刺激をいただいてます。

MOTHERのロムカートリッジは大事にとってあります

民族的な造形物

国立博物館で見た「空海と密教美術展」がきっかけだと思うのですが、今は民族的な造形物に興味があります。例えば菩薩の絵一枚が信仰の対象になっていたらしいんですけど、そういうのってすごいですよね。スピリチュアル的なことはよく分からないんですが、絵画や造形物が持つこの根源的なパワーってなんだろうと思い、興味を持つようになりました。
それからというもの、アートというよりはもっと根源的で民族的な造形物が気になってます。世界各地の儀式に使うマスクの展覧会に行ったり、実際にアフリカの民族のお面を買ったりもしました。

コートジボワールのバウレ族のマスク

日本の妖怪

最近は妖怪の本や図録を集めているんですけど、妖怪のフォルムやストーリーひとつとっても怖かったり笑えるものがあったりで、クリエイティブだなあと思います。誰も見たことがない(かもしれない)ものを想像の中で描いてるんですよね。

妖怪関連の書籍コレクション

密教美術やアフリカのマスクや妖怪がパワーを持っていたのは、今よりも生と死が密接な関係にあったというのが大きな理由かもしれません。自然や病気、いろんな現象に対する畏怖を目に見えるものにして安心したかったんでしょうね。科学が発達していなかった代わりに想像力が発達していたんじゃないかって思います。現代社会ではあまりそういうことはないので、そういったクリエイティブさに憧れているのかもしれません。

個展「ばけものづくし」

そんな妖怪を私なりに描いてみたいと思い、合間を見ては遊びのように少しずつ描いていたのですが、何か目標を立てようということで計画し、今回妖怪をモチーフとした個展を開催する運びとなりました。
もしかすると今回お話ししたようなエッセンスが含まれているかもしれませんね。何にしても楽しく描いていますので、ぜひ怖くて愉快な「ばけもの」達を楽しんでいただければと思います。

齋藤州一 個展「ばけものづくし」
会期:2017年10月19日(木)~10月30日(月)
   11:30〜19:00 CLOSE 火・水
場所:ca*n*ow FOREST
   東京都杉並区高円寺北2-3-15 オフィスアイ101
   http://ca-n-ow.com

第5回では個展用作品の制作過程をご紹介したいと思います。次回もどうぞご覧ください。

第5回につづく。

    UPDATE:
    クリエイターズノート
    イラストレーター・グラフィックデザイナー
    齋藤州一

    齋藤 州一 Shuichi Saito

    齋藤州一(さいとう・しゅういち)
    グラフィックデザイナー/イラストレーター。
    1980年生まれ。出版社のインハウスデザイナーを経て2013年フリーに。グラフィックデザイン・イラストレーションなど、グラフィック表現の分野で制作活動を行う。
    著書『動物と植物の素材集』(インプレス)。
    sososo graphics代表。