プロダクトデザイナー 戸谷慧

「つくる」デザイナーから、「考える」デザイナーへ

クリエイティブの未来を担うのは、きっと、クリエイターの心を揺さぶるクリエイター――。
シリーズ「次代を創るプロフェッショナル」では、クリエイティブの世界でひときわ強い存在感を放つ、いま注目のつくり手たちをご紹介します。

今回ご登場いただくのは、株式会社ビズリーチで求人検索エンジン「スタンバイ」のプロダクトオーナーを務める、デザイナーの戸谷慧さん。
本企画では、彼がデザインに興味を持ったきっかけやルーツを探りながら、「あえて事業会社でデザイナーをやる理由」など、彼が大事にしている考え方や生き方について伺いました。

戸谷慧のルーツ

子どもの頃からモノづくりが好きだった

――幼少期は、どんなお子さんでしたか?
小さい頃から父が建築事務所を経営していたので、家にあった図面の裏に絵を描いたり、模型の端切れで工作を楽しんだりしていましたね。小学生の「特技の発表会」では、みんなが縄跳びとかを披露していた中、自分だけ絵を描いて見せたことも覚えています。

――「デザイナー」という職業に興味を持ったのはいつですか?
中学3年生のとき、父の知人がWebデザイナーとして独立することになり、そのお祝いパーティーに連れて行かれたんです。そこにはグラフィックデザイナーとか、映像作家とか、建築家とか、いろんな人が集まっていて。それぞれが独立祝いにつくった作品をギャラリーに展示して、ワイワイ楽しそうにしていました。
「みんな自分の好きなことをやってて、楽しそうだなぁ」 と思いましたね(笑)。それが、デザイナーという職業に触れた最初の体験でした。

当時参加したパーティーの告知ページ

「Mac」と「Illustrator」に親しんだ高校時代

――デザインを学び始めたのはいつですか?
高校1年のときに、「お年玉貯金」でMacのiBook G4とイラレを買ってもらったんです。それを使って、趣味で色々つくるようになりました。

――たとえば、どんなモノをつくっていたんですか?
1日1枚ガラケーの待受画像をつくって、それを毎日アップするブログを1年ほど続けました。今もまだ残っていると思いますよ。えっと…これです。

――日付のデザインですね。
高校生だったので、誰かに頼まれて何かつくるということはないし、日付のお題を自分に課して、その日の数字をデザインしていました。もともと僕はアーティスト気質じゃなくて、何かしらお題があって、そこに上手に答えたいと思うタイプなんだと思います。

――それで、自分でお題を出していたと。
はい。1日1枚ずつ描いてアップして、それでイラレの機能も覚えていって。そんな毎日が、純粋に楽しかったです。

 

デザイナーとしての戸谷慧

フリーペーパー制作から始まった大学時代

――デザイナーとして仕事を始めたのは、いつからですか?
大学生になって、フリーペーパー制作のアルバイトをし始めたのが「デザイナーとしてお金をもらう」という行為の始まりでした。当時はみんな知識もスキルも乏しくて、全ページをイラレで入稿していたという…。今考えると地獄ですね。
でも、おかげで僕はいまも、イラレがすごく早いんですよ(笑)。

――フリーペーパー以外には何かやりましたか?
そのフリーペーパーをつくっていた会社がWebサービスもやっていたので、そっちも手伝うようになりました。 実は6歳上の兄がエンジニアでして、その影響もあって当時からHTMLやCSSはある程度書けたんですよ。

―― Webと紙、どちらの方が面白いと感じましたか?
自分のつくったもので、誰かが喜んだり楽しんだりしてくれる、という観点で考えると、同じくらい面白いですね。 「仕事にするんだったら、Webの方が将来性はありそうだな」とは思いましたが。まぁ、やっぱりどっちも楽しいですし、今後も機会があれば両方やりたいです。

ビズリーチに入社し、UIデザイナーに

――就活で、数ある会社の中からビズリーチを選んだ理由を教えてください。
「自社のWebサービスをやっている事業会社であること」や「サービスグロースのフェーズに関われること」 など、前提条件はいくつかありました。

――それはなぜですか?
大学時代、ベンチャーのアルバイトであるサービスの立ち上げに携わったんですが、そのサービスが思うように成長せず、結局クローズしてしまって。それで悔しい思いをしていた矢先に、Webサービスをやっているビズリーチという会社が伸びてきていることを知ったんです。「成長しているサービスを運営するコツみたいなものがあるのかな。一体どんな会社なんだろう?」と、純粋に惹かれましたね。
他にも同じようなWeb系の事業会社をあちこち見て、何社か内定もいただきましたが、最終的に決め手となったのはビズリーチの「人」の良さでした。

――具体的に「人がいい」とは?
前向きというか、一緒にいて気持ちいいというか。僕の入社時は社員が200人くらいで、今はもう1000人を超えているんですけど、規模が大きくなっても人の良さや濃さみたいなものはブレていませんね。

――なぜブレないのでしょう?
みんなが会社の価値観を共通認識として持てているからです。きちんとお互いの価値観を確かめ合ったうえで、仲間に迎え、働き始めることができる。そうやって、丁寧に人と向き合ってきた積み重ねが、いまにつながっているかなと。一言でいえば、「採用力がある」ということが、会社としての強みだと思います。

1年目から、新規事業の立ち上げメンバーに

――次は入社後のキャリアについて教えてください。
新人研修を経て、先輩を手伝いながら仕事を覚えていたら、当時のCTOから「スタンバイっていう新規事業をやるんだけど、一緒にやってみない?」と声をかけられて。入社した2014年の6月から、求人検索エンジン『スタンバイ』の立ち上げに携わりました。

――入社2ヶ月で!?それは大抜擢でしたね!
でも、当時のメンバーはベテランのエンジニア5~6人に、デザイナーは新人の僕一人。わりと過酷な環境に放り込まれましたよ(笑)。そこから1年くらいかけて、PCのWeb版、スマホのWeb版、iOSアプリ版、Androidアプリ版という4つのプラットフォームのUIデザインを手がけて。最初はAppleのガイドラインを読んだり、他社のデザイナーに話を聞きに行ったりして、本当にゼロからのスタートでしたね。

――その現場で叩き上げられて、今があるんですね。
叩き上げられたというか、崖から突き落とされたというか(笑)。事業オーナーの役員には、毎週デザインのダメ出しをされていました。 デザインに知見や理解のある人だったので、ものすごく勉強になりましたが。
そんな感じで1年が経った頃、次は「アプリに力を入れよう」というタイミングが来て。UIデザインだけじゃなく、アプリ全体の企画から考えるUXデザイナーとして、ジョブチェンジする形になりました。

 

戸谷慧にとってのデザインとは

UIデザイナーから、UXデザイナーへ

――UXデザイナーになって、ご自身にはどんな変化がありましたか?
UIデザインをひたすらつくってアウトプットしていく、というのも面白いですが、UXデザインを担当するようになってから「つくるだけじゃなくて考えるのもやっぱり面白いな」と思うようになりました。

――「考える」面白さとは?
僕は昔から、自分で何かを考えたりつくったりすることで、誰かを喜ばせるのが好きなんです。だから、「どうすればサービスとして全体が良くなるのか」「そもそも使ってくれる人は何を欲しているのか」といった本質的な部分から向き合って課題を発見し、解決方法を考えていく ことが、自分にとってはすごく面白かったですね。

立ち上げから携わった求人検索エンジン『スタンバイ』

デザイナーの「先」へ

――現在のお仕事について教えてください。
『スタンバイ』のUXデザイナーを経て、いまはプロダクトオーナーというサービスの責任者をやっています。僕はチームのまとめ役という感じなので、手を動かすデザインはもうほとんどしていません。

――「まとめ役」とは?
「チームの人たちが一番働きやすくて、最終的にプロダクトを通じた価値を最大化させるにはどうしたらいいか」と いうことを考える役目だと思っています。
僕はエンジニアリングがすごくできるわけでも、マーケティングに詳しいわけでもありません。しかし、UIデザイナーとしてディレクターとエンジニアの橋渡しをしたり、UXデザイナーとしてチームを巻き込んだりした経験から、プロダクトをつくるということに対するコミュニケーションの重要性を強く感じていて。また、それがデザイナーのスペシャリティのひとつでもあると考えています。そういった意味で、これまでの経験は活きていると思いますし、やりがいも感じていますね。

自身が編集長も務める『BIZREACH DESIGNER BLOG』の編集担当記事キービジュアル

デザインは手段

――立場が変わって、デザインの捉え方に変化はありましたか?
「誰かを喜ばせたい」という気持ちと、「デザインは手段である」という認識は昔から変わりません。デザイン自体よりも、デザインという行為を通じて、世の中をどう良くしていくかのほうが大切ですから。だから、「何が求められていて、このサービスを通じて何が解決できるのか?」をいつも考えていますね。

――そこもブレないんですね。
そうですね。サービスをつくること自体が目的ではないので、「何のためにこれをやってるんだっけ?」という、前提のすり合わせや意思確認はこまめにやっています。
事業会社でモノづくりをする上で最も大切なことのひとつは、「なぜやるか」「何をつくるか」という認識が合っていることだと思っていて。そこを丁寧にやることで、一人ひとりにとって働きがいのある、自己組織化されたパフォーマンスの高いチームができると僕は考えています。

 

戸谷慧が描く未来

もっと、デザイナーの価値を上げたい

――戸谷さんは今後、どういうクリエイターを目指していきたいですか?
僕らビズリーチのデザイナーは、「考えること・つくることの両方がデザイナーの仕事で、それらを通じて世の中の課題解決と価値創造を推進したい 」と考えています。でも、海外ではUXデザイナーやUXリサーチャー、サービスデザイナーといった広義のデザインで経営とプロダクトを結びつけてアウトプットする職種が広まりつつありますが、日本ではまだまだ多くありません。
だからこそ、まずはいま自分たちがつくっているプロダクトを通じて、「やっぱりデザイナーって事業を始めるときに必要だよね」「デザイナーがいたほうが、価値をつくれるね」と言ってもらえるような存在になりたい、というのが直近の目標です。

――プロダクトオーナーという立場から、その未来を目指すわけですね。
はい。デザイナーという役割の人が、みんなで共創するチームをつくり上げ、世の中の課題を解決できるアイデアやサービスを生み出していくことで、まずはビズリーチがサービスデザインに強みのある 会社として認知されることを目指します。

――その先は?
「ビズリーチはデザインで成功したらしいから、やっぱり社内にデザイナーがいた方がいいかも」という感じで、デザイナーの価値が他の会社や業界にも広まっていく、というのが夢ですね。
そうすれば、たとえばAirbnbやUberのような、世の中の価値観を変えてパラダイムシフトを起こせるサービスが日本発で 生まれてくると思うんです。

あえて事業会社でデザイナーをやる理由

――戸谷さんが独立せず、あくまで会社員としてその夢を追いかけるのはなぜですか?
ビズリーチは、「このサービスやプロダクトは何のためにつくっていて、世の中の何を解決できるのだろう」という問いを、会社としてすごく大切にしています。僕はそこにすごく共感しているんです。
それに、世の中の課題や価値観を変えるような大きなことを成し遂げたいと思ったときに、同じ意識でモノをつくれる優秀な人たちと一緒に何かできるのは、事業会社ならではのメリットなのかな、とも思っています。

――他に、事業会社のデザイナーだからこそできることってありますか?
はい。まず事業会社のデザイナーの役割は、デザインをデザイナーだけのもの にしないことだと僕は思っていて。実際に クリエイティブやUIデザインをつくるのはデザイナーの仕事ですが、もっと広い意味でのデザインは、全員がやるべきだと思っています。やっぱりデザインは、プロダクトやサービスに関わるみんなのものなので。

――いわゆる「デザイン思考」というものですね。
何が課題で、それをどう解決したらいいかを考えるのは、エンジニアでも営業でもいいんです。むしろみんなでやっていったほうが、アイデアの幅が広がり、提供できる価値を増やせると思います。そうした共創環境をつくっていくのが、UXデザイナーやサービスデザイナーと呼ばれる人たちの役割なのかなと。
僕の仕事も、「こういう考え方でやりましょう」とか、「ユーザーはこういうことに困っていますよね」とか、みんなに「デザイン 」を意識してもらえる土壌をつくることなのかなと考えています。

 

戸谷慧から若きクリエイターたちへ

――最後に、GOOD! CREATORの読者であるクリエイターたちにメッセージをお願いします。

「デザイナーとしてどういう価値を世の中に提供していくか」と考えたときに、上から降りてきたものを言われた通りにつくる、みたいな従来のやり方ではもう通用しなくなってきていると思います。
だったらもう、ユーザーに直接話を聞いて、何に困っているかという課題を見つけて、早いサイクルでPDCAを回しながらつくっていくほうが、価値あるものをつくれるんじゃないかな。これからはそういう役割が絶対求められるようになるはずだし、そうしたデザイナーの在り方も増えていくと思います。だからみんな、事業会社でデザイナーをやりましょう!

――(笑)。
というのは半分冗談ですけど、クリエイティブ関連の受託制作会社に入る以外にも面白い道はあるよ 、っていうことはぜひ知ってほしいですね。つくることだけにフォーカスして、受け身の「作らされ屋」になるのがイヤだっていう人には、事業会社でデザイナーになる道を強くオススメします。

――ありがとうございました!

    UPDATE:
    次代を創るプロフェッショナル
    プロダクトデザイナー
    戸谷慧

    戸谷 慧 Satoru Toya

    戸谷慧(とや・さとる)
    1989年生まれ。デザイナー。
    早稲田大学大学院 表現工学専攻修了後、株式会社ビズリーチに新卒入社。求人検索エンジン「スタンバイ」の立ち上げからデザイン全般を担当。現在は、サービスデザインやデザインブランディングに尽力。テレビ、音楽、インターネットが好き。