フォトグラファー×イラストレーター CAT BUNNY CLUB

「欲求を発散する」【第2回】

Part.2of 3

クリエイティブの未来を担うのは、きっと、クリエイターの心を揺さぶるクリエイター――。
シリーズ「次代を創るプロフェッショナル」では、クリエイティブの世界でひときわ強い存在感を放つ、いま注目のつくり手たちをご紹介します。

今回ご紹介するのは写真家の植村忠透さんと、イラストレーターの佐々木香菜子さんご夫妻。
両名の魅力やクリエイター/アーティストとしての姿勢、そして2人で結成した「CAT BUNNY CLUB」のアート活動を、全3回に分けて余すことなくお伝えします。

第2回にご登場いただくのはイラストレーター・佐々木香菜子さん。イラストレーターとして大切にしている姿勢や、クライアントワークと作品づくりの違い、将来の目指す姿などについて伺いました。

イラストレーター・佐々木香菜子の原点

寝室にあったのは、ビーナス像の頭部

――現在はイラストレーターとして活躍されていますが、幼い頃の体験で将来に影響するようなものはありましたか?
実は母親がイラストレーターなので、一般家庭にはなかったトレスコープやコピー機、パソコンが小さい頃から家にあったんです。それと、寝室には首だけのビーナス像が飾ってあったり(笑)。それはめちゃくちゃ怖かったんですけど、クリエイティブやアートに触れる機会は多いほうだったと思いますね。私が絵の道に進んだのも、そういう環境で育ったおかげかもしれません。

――ちなみに、部屋に飾ってあったビーナス像は絵ですか?
石膏です(笑)。

無理やり作品をつくることもあった

――デザイン系の大学に進学されていますが、最初からイラストレーターになりたくて?
いえ、もともとはディスプレイデザイナーに憧れて入学しました。でも数字が苦手なことが発覚し……。それで将来の目標をイラストレーターに変えたんです。だから本格的に絵を描き始めたのは大学生になってからなんですよ。高校のときはまったく描いていませんでした。

――大学時代はどんな作品をつくっていたんですか?
イラストレーターになると決めたのはいいんですが、当時は何を描けばいいのかぜんぜんわからなかったんです。花を抽象的に描いてみたり、音楽を絵で表現してみたり、変なものをいっぱいつくっていた気がします。
1カ月に1回は作品展を開く研究室にいたんですけど、無理やりひねり出すこともありました。絵は好きなのに、ほんとはもう描きたくないんじゃないかってくらい、何も浮かんでこないこともありましたよ。

無名時代の佐々木香菜子

上京後、すぐに二足のわらじを履いた

――どのようにイラストレーターのキャリアをスタートしたんですか?
最初はどうすればイラストレーターになれるのか、まったくわかりませんでした。だからとりあえずポートフォリオを在学中にたくさんつくって、自分の憧れていた東京のデザイン事務所や編集部に送っていました。大きめな作品を抱えて、デザイナーさんに直接「見てください」ということもしちゃっていて、今思うと……恥ずかしいです。
そうしたらある日、グラフィックデザインの会社から面接のお話をいただいて、デザイナーとして東京で働くことが決まりました。ありがたいことに、それと同時期にポートフォリオを送っていた別の会社の方から連絡があり、イラストの仕事もさせてもらえることになったんです。

――二足のわらじですね。大変だったんじゃないですか?
めっちゃ大変でした(笑)。夜中までグラフィックデザイナーとして働いて、そのままイラストのお仕事をして、お風呂を友人宅で借り、朝からは通常業務……その繰り返しでした。ヒーヒー言いながらでしたが、とても楽しかったです。やりがいがすごくあって、タフにもなったし!
ファッション系の広告やカタログを扱うお仕事が多い会社だったので、今の仕事につながっているというか、勉強になることがすごくたくさんありました。デザインの仕事とイラストの仕事がお互いに押し上げ合うみたいな感覚もありましたし。
後にBUILDINGというアーティスト事務所に所属することになるんですが、イラスト1本になったのはそれからです。イラストレーターとしての本当のスタートですね。

実験的な絵も描いたし、いろいろなタッチにも挑戦した

――イラストレーターとして働き始めて、どんなところに苦労しましたか?
経験値が少ないままイラストレーター1本になったので……。最初はクライアントの意向をどう表現するか、どう膨らませるかで悩むことが多かったです。当たり前なんですが、そういう状況で「いいね」って言ってもらえるものをつくらなきゃいけないプロ意識の重要さを学びました。
自分の頭では「こう表現したい」と思っているのに、力が足りないから手が追いつかないこともたまに……。

――アーティスト事務所で自分の作品を売り込むために工夫していたことはありますか?
オリジナルの作品や実績をBUILDINGのWebサイトに掲載してアピールするんですけど、私の場合は実験的な絵も載せるようにしていました。「今後のイラストレーターとしての幅が広がるから」とBUILDINGの社長の森さんにアドバイスいただき、いろいろなタッチに挑戦していましたね。今の私があるのは間違いなくBUILDINGにいたおかげだと思ってます。

佐々木香菜子のクライアントワーク

ファッションの“変わり続けるところ”が好き

――佐々木さんの好き・得意なジャンルは何ですか?
得意と言っていいのかわからないですけど、ファッションと関わり合うのはすごく好きですね。イラストレーターの仕事もそういう系統が多いと思います。

――なぜファッションが好きなんですか?
時代とともにどんどん変化するからですかね。流行がどんどん移り変わっていくのにすごく興味があって、それがたぶん私のイラストのモチベーションにもマッチしてるのかなと思います。私もどんどんテイストが変わってるんで(笑)。
あとはファッションで表現される時代や季節の色、表現の幅も好きです。ファッションデザイナーさんたちの思考も独特でおもしろいので、とても刺激になっています。

仕事では依頼者の“細部”も意識する

――お仕事でイラストを描くときの、つくり方・スタイルなどを教えてください。
仕事だと、まず打ち合わせでクライアントの意向を聞いて、ラフでアイディアをご提案して、そこでOKをもらえればそのまま本番。でなければ違う方向に軌道修正して、それから本番、そして納品っていう感じですね
ただ、依頼がかなり抽象的なときもあって、そういうときは最初から絵としてつくることもあります。例えば「クラフト感~」や「硬さと柔らかさを感じるような~」みたいな抽象的なテーマをいただいたとき、その情景や香り、音楽などを妄想してカタチにして提案します。ラフではなくほぼ完成形のような。だからそれが違えば、また違う絵を一から描くことになります。

――そうとうな労力が必要ですよね。アイディアを出すのも大変じゃないですか?
そうですね。雑誌や書籍のような媒体だと絞られているというか、描くものが割とはっきりしているんですけれど、テーマが抽象的だと普段とは違う脳を使ってる感じがしますね。そういうときはオーダーしてくれた方の何気ない言葉を拾ったりするようにしています。打ち合わせでのちょっとした会話のなかで聞こえてきた言葉をヒントにすることも。
とにかく1つの案件で考えられるアイディアを、使えるもの使えないものに分類せず、自分のなかでたくさん出していって、それらを組み合わせたり削ぎ落としたりして提案用の作品を描いています。

――佐々木さんの強み、ほかの人とは違うポイントは何だと思いますか?
強いて言うなら“貪欲さ”な気がします。例えばあるお仕事をさせてもらってそれを納品しても、「終わった~!」とはあまりならず、すぐに「次はあれやりたい」「その次はこれやりたい」ってなるので、やりたいものだらけです。
私生活ではそんなことないんですけどね(笑)。

これまでに経験したすべての仕事が印象深い

――お仕事で印象に残っているものはありますか?
ビルディング時代につくったものも思い出深いですし、今も常に新しいお仕事をさせていただけているので、すべてに思い入れがありますね。今は抽象的な作品も描いているので、それによってだいぶ仕事内容も広がりました。テキスタイルになったり、「417 EDIFICE / SLOBE IENA」のように新店舗にアート作品をディスプレイとして展示していただいたり。

――このときは洋服にもペイントされたんですよね。
そうですね、ヴィンテージアートというテーマで。デニムなどを送っていただいて家で描いたんですけど、ぜんぶ一点ものなので緊張感がすごかったです。
「UN3D」というブランドではトルソーの頭にもペイントをさせていただきました。正直なところ、頭にネジがついている状態のものだけだったので、どうやって描くか悩みました(笑)。そんなとき、夫がナイスアイテムを持ってたんです。三脚。あれにカメラをさすところがあるじゃないですか。そこに頭をさしてぐるぐる回して描きました(笑)。

期待を超えた提案を目指す

――クライアントワークにおける“クリエイティビティの高いイラスト”とは、どんなものだと思いますか?
期待以上のものを提案できるイラストだと思います。求められているもの、プラスαも一緒に提案ができたらいいなと考えています。「こういう表現もあったんだ!」って思ってもらえるような。
私を選んでくれたからには、依頼通りのものだけでなく、「こんな表現も素敵なのでは!」という違う可能性もご提案したいと思いながら、お仕事をさせていただいています。なので、私の中では表現の幅がすごく重要になってくるのではないかなと思います。

――ちょっと話が脱線しちゃうんですけど、前回のインタビューでご主人の植村さんも同じことをおっしゃってました。
ほんとですか? 同じご飯食べてるだけありますね(笑)。

――イラストを見る人にどんなことを伝えたいですか?
仕事に限らないんですけど、良くも悪くも、とにかく何かを感じてほしいと思っています。例えば抽象的なものを描く仕事だったら、「これはこの花ですよ」って説明するんじゃなくて、その人の気分によって見え方や感じ方が変わっていいと思うんですよね。たとえそれがプラスではなくマイナスの感情だったとしても、私のイラストが“気持ちの変化”のきっかけになれるといいなと思っています。何も感じてもらえずに素通りされるのが一番つらいですね。

佐々木香菜子のアート活動

作品で表現するのは自らの感情

――佐々木さんは作品づくりにもお仕事にも精力的に取り組んでいる印象ですが、やはり両者は別ものですか?
ぜんぜん違いますね。作品は仕事のように誰かに依頼されてつくるわけではないので、もろに自分の感情が出るんです。情緒不安定になって急に泣き始めることもありますよ、自分でもたまに怖いです(笑)。

――作品づくりでもテーマを決めてから描くんですか?
そうですね。今までだと「生と死」とか「紺碧の世界にいる自分」とか。そのときどきの自分の気持ちを表現したものが多いです。テーマを決めたら作品づくりに入るんですけど、1回スイッチが入っちゃうと気持ちの切り替えが難しいんですよ……仕事もあるので。
だからスケジュールはちゃんと組むようにしていますね。「作品づくりはこの日まで」「仕事はこの日からスタート」という感じで細かく決めないと、なかなか生活が大変なことになるので(笑)

――オリジナルの作品で印象に残っているものはありますか?
仕事と同じくぜんぶが印象的なんですよね。さっきお話ししましたけれど、作品をつくるときは自分の気持ちをテーマにしているので、なおさら思い出深いんです。1つずつの感情を鮮明に思い出せるくらい。
例えば、私が独立したてのときに開いた個展『GROWNITY』。人間が生み出し増殖していくさまざまな感情“humanity”という言葉と、植物の成長、実を宿し朽ち、そして再生していく姿“grow”を重ねた造語です。その当時はいろいろなことが重なった時期で、プラスとマイナスの感情が爆発しそうな気持ちでした。そのエネルギーを展示に込めました。

――今後つくってみたい作品はありますか?
作品を着物に“織り”で落とし込んだり、文化的な建造物とのコラボレーションなどをしてみたいです。
あとは、絵だけで抽象的な映像作品もつくり、空間ぜんぶを使って展示をしたいです。そのなかに入ると異空間にトリップできるような!

――和テイストが好きなんですか?
いや、ぜんぜんそうじゃないんですけど……言われてみれば、よく言われる気がします。意識はしていないのですが、墨の表現だったり、色合いがそう見えるんですかね。

個展で伝えたいのは、次なるステップ

――たくさん個展を開催されている印象ですが、目的や成果はありますか?
私の“次のステップ”を見ていただくのも1つの目的です。“今後の作品の方向性や可能性”の発表の場になればいいなと思っています。

――そういう新たな面を見てもらったあとに、お仕事の声がかかることもあるんですか?
ありますね。例えば『GROWNITY』では壁一面に作品を展示することで、「佐々木さんはこういう空間がつくれるのね」と思ってもらえたり、このときは自分でキャンドルもつくって販売したんですけど、あとで実際にパッケージのお仕事もいただけました。
個展で展示するのはあくまで作品なんですけど、お仕事につながる提案の場にもなっていると思います。

佐々木香菜子が目指すもの

限界値を決めないアーティストを目指したい

――目標とするイラストレーターやアーティストはいますか?
私は昔からグラフィックアーティストの牧かほりさんを尊敬してまして。牧さんの作品を拝見したのは大学生のときでした。ものすごく刺激的でパワーがすごくて、かっこよくて……。
東京に来てからいろいろお話しさせていただく機会があるのですが、いつも緊張しちゃいます。とにかく作品の幅も常に広げられていて……今でも憧れの人です。

――5年後10年後、どんなアーティストになっていたいですか?
限界値を決めない、変化していくアーティストになっていたいです。

佐々木香菜子のこだわり

大切なのは“妄想”すること

――イラストレーターに大切な能力はなんだと思いますか?
正しいかはわからないんですけど、大事なのは“妄想力”だと思っています。例えば音楽を聴いて勝手にストーリーを想像するとか、色の由来や行方に想像を巡らせてみたりとか、考えることがけっこう好きですね。もしかすると、そういう時間も何かの訓練になっているかもしれません

――道具にもこだわりはありますか?
それはあんまりないですね。そのとき使えるものであれば、筆でも板でも手でも、何でもいいです。でもパソコンは絶対に大事ですけど(笑)。

――絵を描くときのルーティーンのようなものはありますか?
記事に載せられるかどうかわからないんですけど、作業してるときはよくスプラッター映画を流してるんですよ。好きなんですよね、そういうのが。登場人物の心理を想像してニヤニヤしてます。園子温監督の『冷たい熱帯魚』なんて最高ですよね。まさに人間の究極的な姿だなと思います。ああいうのを流しながら作業してるとけっこうホッとするんです。なんででしょう(笑)。

佐々木香菜子から若きクリエイターたちへ

――最後に、GOOD! CREATORの読者であるクリエイターたちにメッセージをお願いします。
自分の経験から、「とにかく動くしかない」と思っています。いいことも悪いこともぜんぶ自分の経験値になるので、欲に対して怖がらず、動き出してみることが自分の求める世界へ近づかせてくれるのかな! と思います。

――ありがとうございました。

第3回につづく。

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    UPDATE:
    次代を創るプロフェッショナル
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    CAT BUNNY CLUB(きゃっと・ばにー・くらぶ)
    2016年、フォトグラファー・植村忠透氏とイラストレーター・佐々木香菜子氏の夫妻により結成されたクラブ活動。「制作したい欲求の発散」を目的にアート活動を展開している。略称は「CBC」もしくは「キャバクラ」。絶賛部員部集中。


    植村忠透(うえむら・ただゆき)
    青森県出身、フォトグラファー。
    東北工業大学を卒業後、フォトグラファーを目指して上京。写真家・宮原夢画氏のアシスタントを経て2005年に独立。ファッションや美容関連のジャンルを得意とし、これまでに広告や雑誌、著名人のポートレート撮影を数多く手がけてきた。


    佐々木香菜子(ささき・かなこ)
    宮城県出身、イラストレーター。
    東北工業大学を卒業後に上京し、デザイン会社、アーティスト事務所を経て独立。ファッションを主軸に、広告や商品パッケージ、企業とのコラボレーションなどを幅広く手がける。近年は抽象画作品の制作や作品展の開催にも注力。