アートディレクター 藤井賢二

デザインの力で、人々に笑顔を【第1回】

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クリエイティブによるソーシャルグッドには、どんな可能性があるのだろう――。
シリーズ「ソーシャルグッドで社会を動かす」は、クリエイターによる、クリエイティブを手段とした社会貢献活動をご紹介する企画です。

記念すべき第1弾にご登場いただくのは、これまでにさまざまな商品・ファッション広告を手がけ、多くの広告賞を受賞してきたアートディレクター、藤井賢二さん。
本企画では、彼の国内外を問わないソーシャルグッドな取り組みを数回に分けてご紹介します。

第1回では、藤井さんがソーシャルグッドを始めたきっかけや、大切にしている姿勢、アフリカで行っている取り組みについて伺いました。

デザインで笑顔を与える、それが“Smile Design Labo”

はじめは理解を得られなかった

――Smile Design Laboというプロジェクトについて教えてください。
一言でいうと、僕が所属する広告制作プロダクション・たき工房の社会貢献活動です。僕たちの強みであるデザインを駆使して、ビジネス以外でも世の中に役立ちたいという思いが前提にあって始まった取り組みですね。「デザインで人や社会に笑顔を与えること」を目的に、アフリカや日本の子どもたちのためにワークショップを開催しています。

――Smile Design Laboはどんなきっかけで始まったんですか?
音楽とアートで社会貢献活動をしているmudef(ミューデフ)とたき工房の社長、宮本の出会いがきっかけです。mudefはアーティストのMISIAさんやGLAYのTAKUROさんが理事会メンバーをされている一般財団法人なんですけど、そこと宮本で「一緒に何かやりたいね」という話になったんです。それで、僕を含めたたき工房の数人に「うちでも社会貢献やろうよ」と相談が持ちかけられました。

――会社としてソーシャルグッドな取り組みをすると聞いて、どう思いましたか?
実は、相談された僕らはそこまで乗り気じゃなかったんですよ。いわゆる普通の仕事ではない社会貢献活動なので、「いったい何ができるの?」と不安に思ったのが正直なところです。とはいえ、僕自身以前からソーシャルな取り組みをしたいとは思っていたので、前向きに参加しました。
ただ、社長の一声で始まったプロジェクトだし、最初は少人数で進めていたから中身が見えない部分も大きかったので、ほかの社員からは「そんなこと本当にやる必要があるのか?」と理解されませんでしたね。

――まずは社内の理解を得る必要があったんですね。
プロジェクトが動き始めた頃は、それが一番の壁でしたね。でも、僕らが実際にアフリカを訪れて、見てきたものを報告して、やりたいことをちゃんと伝えることで、徐々に理解を得られるようになりました。そうして少しずつ協力してくれる人が増えていきましたね。

自分自身、理解が足りていなかった

――プロジェクトを進めるうえで、ほかに大変だったことはありますか?
自分の肩書きですね。それまではお客さんがいて、オーダーをいただいてモノづくりをしてきたわけで、デザイナーとかアートディレクターで通じたんですけど、mudefの方やアフリカの方に会ったとき、彼らの頭の上に「?」がつくんですよ。「デザイナーって何をする人?」そのデザイナーが何しに来たの?」という感じで。
自分たちが何をしにアフリカに来たのか、自信を持って説明できなかったというのもあります。ようは、自分たちの役割をよく考えないままソーシャルな活動を始めちゃってたんですよね。

――今は自信を持って説明できる?
「Smile Design Laboの社会貢献活動で来ました」という言い方ができるようにはなったかなと。最初は自分たちが社会貢献をするなんておこがましいと思っていたし、個人的には今も大それたことをしているつもりではないんですけど、対外的に「ソーシャルグッド」や「社会貢献」と言えるくらいの取り組みにはなったと思います。もちろん、僕自身の取り組みに対する本気度的にも。

ソーシャルグッドを始めたきっかけは3.11

最初は何の役にも立てなかった

――藤井さんご自身がソーシャルグッドに興味を持つに至ったきっかけは?
東日本大震災ですね。もともと社会貢献に興味なかったし、ましてやボランティアに行くような人間でもなかったんですけど、3.11のときはさすがに「何かしなきゃ」と思いました。
ただ、そうはいっても社内向けポスターをつくったり、後輩を連れて宮城県に行って日帰りボランティアとして海沿いの工場で土砂を掻き出したりしただけなんですけど。

――デザインを使った貢献ではなかったんですね。
そうですね。でも、だんだん考えるようになったんですよ、「仕事でものをつくるだけじゃなくて、もっと世の中の役に立つものがつくりたいな」って。
震災から2年くらい経った頃の話になりますが、宮城県の牡鹿半島というところの商工会で復興活動プロジェクトを進めている人と知り合ったんです。「手伝わせてくれ」と頼んで、ようやくデザイナーとしてソーシャルな取り組みに参加させてもらったんですが……結果的に役には立てませんでした。

――どんなプロジェクトだったんですか?
そのとき関わったのは地元の名産品や観光プログラムをつくるというもので、僕が参加したときは商工会の人たちや地元の代表者が集まって、何もない状態から企画を練ろうとしている段階でした。そこにいきなりアウトプットする人間が現れても、ものをつくって役に立つことなんかできませんよね。時期尚早というか。
デザイナーの視点で提案させてもらったりはしたんですけど、やっぱり役に立てなかった悔しさは残りました。

子どもたちに夢を尋ねたけれど、自分は夢を語れなかった

――ちなみに、牡鹿半島の名産品をつくるプロジェクトではどんな提案を?
役場に集まった一部の人だけじゃなくて、たとえば民宿のおばちゃんとか、その辺りに住んでいる人たち全員が理解したうえで、町として取り組んだほうがいいんじゃないですか? という話をしました。それで、地元の中学校とつながりがあるということだったので、中学生たちとレシピを考えて発信することになったんです。
牡鹿半島でよく採れるアナゴ名産品の候補に上がったので、僕が中学校に行って「名産品をつくって地元を盛り上げていこう」「みんなでアナゴの料理を考えてみよう」と企画の意図を説明しました。ところが、子どもたちにアナゴを食べたことがあるかと聞いても「食べたことない」、じゃあアナゴがよく採れることは知っているかと聞いても「知らない」という答えしか返ってこなかったんです。

――それは焦りますね。
僕としてはデザイナーなので“いい感じのアウトプット”をしようとしているわけじゃないですか。たとえば「アナゴを使ったキャラクターを考えてみよう」とか、「どんなレシピだったら牡鹿に人が来てくれるか考えてみよう」とか。でもこの問いかけって突き詰めていくと、「これからこの町どんな姿にしていきたいの?」とか、「君たちは将来どうなりたい?」と尋ねてるのと同じなんですよ。
企画の流れ上そうせざるを得ない面もあったんですが、そんな質問を投げかけたところで、彼らは普通の中学生。僕が勝手に“被災地の特別な子どもたち”と思っていただけなんです。彼らからすれば「町がどうなっていくかなんてわからないよ」みたいな感じでした
思い返してみれば自分が中学生の頃なんて1年先のことも考えてなかったのに(笑)。
そこで気づいたんです、もし子どもたちに「おじさん、未来のことどう考えてんの?」と聞かれても、「あ、答えらんないや」って。自分の夢や未来を語れない状態で、子どもたちに同じことを聞くなんてしちゃいけない。そんなことを痛感した出会いでしたね。

アフリカの活動で学んだソーシャルグッドの本質

課題を解決することではなく、課題に寄り添うことが大切だった

――Smile Design Laboでは、なぜアフリカを支援することになったんですか?
正直に言ってしまうと、パートナーであるmudefが全面的にアフリカを支援していたので、必然的にアフリカで活動することになりました。僕自身、特にアフリカが大好きだとか興味があるといったことはありませんでした。
けれど、社会貢献活動を始めることにおこがましさを感じつつも、僕自身は牡鹿半島で何もできなかった悔しさを引きずっていたので、今度こそ何かしたいと前向きに考えることができました。

――社会貢献やソーシャルグッドと呼ばれる取り組みには、何かしらの課題に向き合う側面があると思うのですが、アフリカにはどんな課題があると感じましたか?
アフリカって課題が山積みじゃないですか。数が多いし、それぞれが大きすぎる。極端にいえば、普段の仕事は企画書をつくって企業のちょっとした課題を解決するだけで済みますけど、アフリカとなると次元が違いますよね。僕自身、物事に対して「何かアイディアを出して企画を立てれば解決できる」と考えて仕事をしてきた人間だったので、それをいざアフリカに置き換えてみたら、「やばい、何もできない」となっちゃったんです。

――課題や問題があまりにも壮大すぎて?
はい。だから最近は、ソーシャルな活動をするときは「これで世の中をひっくり返してやろう」とは思わずに、課題に寄り添うことが大切かなと思うようになったんです。
いつもの仕事と同じように依頼を受けて、課題に対する回答を用意して、「ありがとうございました、お疲れさまでした」と終わっては意味がない。いつ何がどう動くかわからないけれど、関わった以上は「末永くよろしくお願いします」という姿勢でいるのが、相手にとっても自分にとってもいいと思うんです。最近はそういう考えに至ったので、ソーシャルな取り組みをするときに、ちょっと肩の荷が下りた状態で取り組めています。
Smile Design Laboでも、若い後輩デザイナーが1つのアイディアで状況を変えようとしているのを感じるんですよ、前の僕のように。でも、そうじゃないと思うんですよね、ソーシャルグッドな取り組みって。

クリエイターならではの貢献をしたかった

――アフリカで行ったソーシャルグッドのなかで、印象に残っている取り組みはありますか?
Smile Design Laboではアフリカの子どもたち向けの“クレヨンプロジェクト”というソーシャルグッドを展開しているんですが、そのなかの“白い小鳥の物語”というワークショップが印象に残っていますね。僕が初めて子ども向けに開いたワークショップだったので。
このときは、白くて小さい自分に自信が持てない小鳥のために、子どもたちに絵を描いてもらいました。子どもたち一人ひとりに物語の冊子を配って、読み進めてもらって、最後のページで小鳥がどんな姿になっているか考えて絵を描いてもらったんです。「君自身の手で描き加えて、小鳥を素敵な姿にしてあげてね」と。
単純にお絵描きするだけなら図工の先生でもいいじゃないですか。アートディレクターとして、デザイナーとして、子どもたちに“目的を持ったお絵かき”をしてもらいたいなと思ったんです。

――具体的に、どんな目的を持たせたんですか?
誰かのために絵を描く、絵を描くことは誰かの役に立つ。子どもたちにはそういうことを知ってもらいたいと思いました。
普通に絵を描くだけなら単純に「楽しい」で終わってしまうと思ったんです。自己表現の要素が強くて、誰かの役に立つという感覚ではないと思うんですけど、そういうのを少し変えられないかと思っていて。僕がデザイナーとしてする仕事って、好きにお絵描きすることではなくて、誰かから依頼されたものをカタチにすること、つまり誰かのためにデザインすることじゃないですか。その感覚を子どもたちにも体験してもらいたかった。
ただ、「こんなの大人の都合だ」「子どもたちも楽しく取り組んだだけだ」と言われればそれまでかもしれません。それでも、できるだけデザイナーらしい貢献がしたかったんです。

――デザイナーである限りは、やはりデザインを手段としたソーシャルグッドをしたかった?
もちろんそうですね。もしも僕がアーティストだったら、好きにお絵描きをしてもらうだけでもよかったかもしれません。
でも僕はデザイナーです。アートが自己表現であるのに対して、デザインは何かを解決すること、誰かのためにものをつくることだと思うので、子どもたちにも「これはデザインなんだよ」と伝えたかったんです。

――このワークショップを通して印象に残っていることはありますか?
アフリカの子どもたちに絵を描いてもらうと、紙の隅っこにすごく小さく描くんですよ。真っ白な紙がもったいないから。
日本の子どもに「元気よく描いて」とか「紙を大きく使って」と言ったらその通りに描いてくれると思うんですけど、アフリカの子たちは本当に小さく描くんですよ。それが印象的でしたね。自分が普段どれだけ自由にモノを使える環境で生活できてるんだろうって気づかされましたね。

藤井賢二にとってのソーシャルグッドとは

“理屈”と“感情”のバランスを取らなければいけない

――社会貢献やソーシャルグッドは、ただ「やりたい」だけでは足りない活動という気がするのですが、そういった意味で大事だと思うことはありますか?
理屈と感情のバランス、ですかね。「社会貢献なんてしなくていい」とまでは言いませんけど、ものすごく冷静に考えちゃうと、「困っているとはいえ他人のために必要以上のことをなぜやってあげるの?」という考えになることもあると思うんです。
それに対して、アフリカの子どもたちのために何かしてみようとか、震災が起きたから現場に行って何かしようというのは、そういう冷静すぎる考えを持っていたら起こせないアクションじゃないですか。そういう意味でいえば、「楽しそう」とか「やってみたい」という感情――自分が大事だと思ったことに盲目的に取り組んでいく勢いのような部分も大切だと思うんです。

――でも、それだけではダメなんですね?
はい。感情だけで動き回っていればいいかというと、それもそれで違うはずなんです。思うままにアクションを起こして、そのときは楽しいから自分はいいかもしれないですけど、結局その行動の目的や意味を冷静に説明できないと、周りに理解してもらえない。一時的な取り組みで終わってしまって、そのあとは続いていかないと思うんですよね。Smile Design Laboプロジェクトの始動時と同じで、きちんとみんなに説明できないと、共感も協力もしてもらえないわけです。
なので、「やりたい」と思って行動を起こす感情の部分と、それをちゃんと着地化させようとする冷静な自分のバランスを取れないと、ソーシャルグッドな取り組みを続けていくことはできないのかなと僕は思います。

クリエイターとしての“幅”を広げてくれる

――ソーシャルグッドな活動を通して変わったことや気づいたこと、今後のクリエイティブに役立ちそうなことはありますか?
まず、人脈が広がったと思いますね。普段の仕事はクライアントとのお付き合い、つまり受発注の関係ですよね。これまではそうしたビジネスの関係に多様性があると思っていたんですけど、今は狭い世界だなと思います。
ビジネスとは違うソーシャルな活動に足を踏み入れていくと、途端に今まで会ったことがないキャラクターが現れるんです。地方の商工会のおじさん然り、中学生然り、アフリカの子どもたち然り。とにかくこれまでじゃ考えられないような――向こうからすれば僕が考えられない相手なんですけど、いろいろな人種と出会えるんです。

――それが普段の仕事にも生きている?
そう思いますね。ソーシャルな活動にもビジネスのように課題がある。課題を解決するのか、寄り添うのかという違いはありますけど、一緒にモノづくりをすることは変わりません。ソーシャルな活動なら、それが普段接することのないような人たちとできるんです。
もちろん、お互いのやりたいことが合致しないときも多いんですけど、それがピッタリ一致したときにできる活動というのは、やっぱり普段の仕事では味わえないことだと思います。モノづくりの種類もさまざまだし、いろいろな場所でいろいろな経験ができますしね。そうした経験が結果的に本業にもいい影響をもたらしてくれていると思います。

――デザイナーとしての幅が出るというか。
そうですね、単純に考え方の幅が広がったような気がします。普段の仕事の場でも、「世の中ってこうじゃないですか」と自信を持って言えるようになりました。それはたぶん、いろいろな考えや境遇を持った人に出会ったからこそ言えることかなと思いますね。一回りも二回りも大きくなれるような人生経験をさせてもらえている気がします。

――ありがとうございました。

第2回につづく。(4月14日公開)

  • ソーシャルグッド
  • 藤井賢二
  • TAKI Smile Design Labo
    UPDATE:
    ソーシャルグッドで社会を動かす
    アートディレクター
    藤井賢二

    藤井 賢二 Kenji Fujii

    藤井賢二(ふじい・けんじ)
    1975年、愛知県出身。アートディレクター/グラフィックデザイナー。
    これまで多岐にわたる商品広告やファッション広告のアートディレクションを経験。
    所属するたき工房では制作部専任部長を務める。同社の社会貢献活動である「TAKI Smile Design Labo(スマイルデザインラボ)」の中心メンバーとして活動するほか、デザインによる復興支援など、さまざまなプロジェクトでアートディレクターとして活躍している。