嵯峨倫寛×芽々木

フォトグラファー×人形作家【第2回】作品制作

異なる領域で活躍するクリエイターがコラボレーションしたとき、どのような作品ができ上がるのだろう――。
シリーズ「クリエイターコラボ企画」では、違ったジャンルのクリエイターがお互いの個性を刺激して、新たな作品をつくります。

今回コラボするのは写真家の嵯峨倫寛さんと、人形作家の芽々木さん。ジャンルも個性も異なるクリエイター同士が取り組んだ企画会議から作品制作、批評会までの模様を、全3回に分けてお届けします。

第2回は、実際の作品制作の現場レポートです。6体の球体関節人形を被写体に、それぞれのキャラクターや雰囲気をもっとも表現できる場所・方法で作品の撮影を行います。

企画の概要

第一回の企画会議後、嵯峨さんと芽々木さんの間で作品のコンセプト・イメージについての話し合いが進められました。芽々木さんによる人形一体一体の制作が完了次第、その姿を嵯峨さんが確認します。それによって浮かんだインスピレーションを元に、写真作品のコンセプトが練り上げられました。
そして、7月中旬に作品のタイトルと撮影ロケーションが決定しました。

作品タイトルは『制服を着ていない女子高生に意味などない』

制服姿の球体関節人形を使った写真作品のタイトルは『制服を着ていない女子高生に意味などない』。これは、前回の企画会議で芽々木さんが口にした言葉です。
思春期の曖昧さを象徴するもの、と芽々木さんが称する制服。「制服=思春期の曖昧さの象徴」という芽々木さんの発想を元にアイディアを積み上げ、以下のコンセプトがつくられました。

球体関節人形と写真で表す女子高生の「苛立」「不安」「心の傷」
今回の人形作品は制服によって女子高生という記号が与えられている。
そして、考え方によっては、現実の女子高生の多くもまた、制服によって女子高生という記号が与えられているといえる。
一様な価値 を与えられた制服の女子高生が感じる「苛立ち」「不安」「心の傷」を、球体関節人形と写真のコラボレーションで表現したい。

嵯峨さんと芽々木さんは、このようなコンセプトを掲げ、今回の作品づくりに臨むことを決めました。

撮影場所は、東北生活文化大学高等学校

今回写真撮影の場所として選ばれたのは、宮城県仙台市泉区に位置する「東北生活文化大学高等学校」。普通科、商業科、美術・デザイン科の3学科で390名の生徒が学ぶ創立約70年の私立高校です。2015年に学校PR映画としてつくられた『流星と少女』は、第20回富川国際ファンタスティック映画祭(韓国)にノミネート、第11回札幌国際短編映画祭では最優秀北海道作品賞を授賞しました。
思春期の象徴である制服を身に付けた少女人形を撮影するには、これ以上ないロケーションです。

東北生活文化大学高等学校
宮城県仙台市泉区虹の丘一丁目18番地
交通:仙台市地下鉄南北線「八乙女駅」より徒歩約10分(スクールバス利用:約3分)
URL:http://www.seibun.ed.jp/
TEL:022-272-7511

デッサン室と6名の女子高生

最初の1体

7月某日、初夏の雨が降りしきるなか、嵯峨さん、芽々木さん、編集部スタッフは東北生活文化大学高等学校に集まりました。
集合時間より早くから学校を訪れ、すでにロケハンを済ませていた嵯峨さん。最初の撮影場所として選んだのは、イーゼルと彫像が並ぶデッサン室です。
実際のロケーションを目の前にして、芽々木さんがテーマカラーの異なる6体の少女人形から被写体を選びます。
最初の1体として選ばれたのは、芽々木さん曰くおとなしい性格をした、テーマカラー黄色の少女人形でした。動物は、ニホンジカをイメージしているのだそう。
「顔の向きをほんのちょっとだけ動かしてもらえますか?」
嵯峨さんがファインダー越しに構図を確かめ、芽々木さんが少女人形の姿勢や角度を調整します。絵の具や鉛筆などその場の道具も用いつつ、撮影しながらイメージを確固たるカタチにしていきます。
「芽々木さん、確認していただいてよろしいですか?」
「あ、いいですね。美術部員って感じ(笑)」
西陽差すような暖色系の色合いがいいのか、青白く張り詰めた寒色系がいいのか――画面に配置する道具や構図を決めた後も、細かい部分を追い込みながら撮影が行われました。

人間と人形のコラボレーション

続いて、2体目の撮影です。場所は、1体目を撮影した部屋の上階にあるもう1つのデッサン室。こちらでは、生徒の皆さんにも協力していただき撮影を行いました。
選ばれたのは、ハイイロギツネをモチーフにした、テーマカラー青の少女人形。見る人に、どこか薄幸な印象を与えます。ここでは部屋の電灯を消して、ストロボによるライティングで撮影していきます。
「ライティングは、光をコントロールするために行うんです」
露出計で何度も光の加減を測り、イメージに合う光と影を構築していきます。
「それでは、生徒さんにも入ってもらいましょうか」
撮影に加わってくれたのは、いずれも美術・デザイン科に通う3人の女子生徒さん。生身の人間と球体関節人形が混在する画面は、奇妙な非日常性を感じさせます。

「どうもバランスとして1人足りない気がしますね。もう1人加えて撮影したいな」
「先生ー!」
そこにちょうど現れたのが、先生を探してデッサン室を訪れた1人の生徒さん。
「ちょうどいいところに来てくれた。もしよければ、撮影に加わってもらえます?」
4人の生徒+少女人形1体。計5名の女子高生が画面に収まった作品ができました。
撮影を終えた生徒さんは「すごい! かわいい」「写真撮っていいですか?」と間近で見た球体関節人形に興味津々な様子。デッサン室は、一気ににぎやかになりました。

自然な表情も気だるげな姿勢も

2体目の撮影を終えた一同は校舎に場所を移し、誰もいない教室に入ります。ここで撮影する人形は2体。テーマカラーオレンジ、ドール(アカオオカミ)をモチーフにした少女人形と、テーマカラーピンク、シロウサギをモチーフにした少女人形です。

少女人形の自然な表情を捉える

まずはベランダで1体を撮影します。テーマカラーオレンジの少女人形は、ボーイッシュで素直な印象だと芽々木さんは語ります。それを踏まえて、自然光が入るベランダでナチュラルな写真を撮るという撮影イメージがつくられました。ベランダの奥行きを活かすため、レンズが望遠のものにつけ替えられます。
「もうちょっと人間みたいに撮りたいな」「レフ板だけ当ててみましょうか」
椅子に腰掛けた少女人形の自然な表情を捉えるため、少女の姿勢や光の当たり具合の微調整が何度も行われました。

少女人形の性格を仕草で表す

4体目の撮影に移るべく一同は教室のなかへ。ここで撮影するのはテーマカラー赤で、ピンク色の長い髪が印象的な少女人形です。
「この子、性格悪そうですね(笑)性格悪そうに撮りたいな」
小道具として教室の本棚から英和辞典を取り出しその上に少女人形を気だるげに座らせて、キャラクターを表現しました。
「ちょっと首を傾げさせてみてください」「頬に手を当てさせることってできますか?」
さらに、人形のキャラクターを引き出すため、細部の仕草を追い込みます。
特にこだわったのが少女人形の特徴的なロングヘアー。芽々木さんがドール用のオイルスプレーで髪の状態を整えつつ、イメージに合った髪型をつくっていきました。

ポーズ・道具で表す少女人形のキャラクター

ポーズで表現する少女人形の強い意思

教室での撮影を終えた嵯峨さん・芽々木さんが次に訪れたのは昇降口。被写体は、テーマカラー紫のユキヒョウをモチーフにした少女人形です。ダークな雰囲気をまとっています。
芽々木さん曰く「性格的には、この子はちょっとキツい感じですね。みんなのなかで1人だけ横を向いているような」とのこと。
彼女のキャラクターに合わせて、強い意思を感じさせる写真を撮るイメージが設定されました。嵯峨さんは昇降口に寝そべって、体を張った撮影を行います。さらに強い意思を表現するため、立ち姿の少女人形にポーズをつけることが決まりました。
「ちょっと歩幅を広げてみましょうか」「左手を少し前に」
嵯峨さんの指示に合わせて芽々木さんが人形の姿勢を細かく調整し、理想のポージングをつくっていきます。そのかいあって、「かっこいい」と芽々木さんが声を漏らす作品ができました。

“本”でギャップをつくり出す

次の撮影場所に選ばれたのは図書室です。6体目の被写体は、絶滅危惧種のヤマネコであるオセロットをモチーフにした、テーマカラー緑の少女人形。見た目はやや気の強い印象ですが、根は優しい子なのだそう。
「文学少女っていう感じじゃないですね(笑)」
と芽々木さん。
嵯峨さんは、だからこそ、この少女人形の写真は図書室で撮りたいと言います。
「第一印象にそぐわない“本”というモチーフを与えることで、ギャップをつくりたいんです」
では、この少女人形のイメージに合うのはどのようなジャンルの本なのか。早速芽々木さんとイメージのすり合わせが行われました。生みの親である芽々木さんから少女人形の背景を伺いつつ、図書室に並べられた本のなかから、少女人形の容姿や内面に合致したジャンルを探します。そうして最終的にたどり着いたのが、アイスランド文学の棚でした。真っ白な背表紙と少女人形の褐色の肌が、とても美しく対比されます。またその柔らかな色調は、少女人形の純粋で優しい内面を象徴するかのようです。
「少し顔をカメラから反らしてみましょう」「もう少し下向きに目線を向けられますか?」
息の合った作家同士の共同作業で、少女人形の撮影イメージをカタチにします。
褐色の肌をした少女人形と本。一見そぐわないようなモチーフが融和して、独特の世界観を感じさせる作品が誕生しました。

顔を写さない――匿名性のある写真

「最後に、顔が写っていない写真も撮りましょう」
嵯峨さんから、そう提案がなされました。その意図は、「匿名性のある写真を撮りたい」というもの。
「顔を写して少女の個性を表現した写真と、顔を写さず制服の記号性を表現した写真。その両方を撮影することが、今回のコンセプト――女子高生の「苛立ち」「不安」「心の傷」を表現すること――に合致すると思います」
芽々木さんもその考えに賛同。最初のデッサン室で、人形の顔を写さない作品が制作されることになりました。さらに、1体ずつではなく、6体の少女人形を2体ずつ撮影することに。長髪の少女人形と短髪の少女人形でメリハリをつけるなど、2体だからこそできる工夫を施して、1体ずつとは違った味わいの作品が生み出されました。いったい、どの少女人形がコラボレーションして、新たな作品が生まれたのでしょうか。

撮影を終えて

コラボレーションによる作品制作を通して、2人のクリエイターはそれぞれどのような感想を抱いたのでしょう。撮影を終えた嵯峨さん・芽々木さんに個別インタビューを行いました。

嵯峨倫寛インタビュー

――本日行った作品制作の感想を教えてください。
まず、単純におもしろかったです。そのうえで、芽々木さんの人形が持っている内面的な意味を引き出すことができたのではないかと思います。実際に目にした芽々木さんの球体関節人形は、ただそこにいるだけで表情やキャラクターを感じさせるものでした。そこで、素材を活かすためあまり特別なことはせず、感じたイメージのとおりに撮影を行ったのですが、結果としていいものが撮れたのではないかと感じています。

――今回事前に考えていた撮影イメージはどのようなものでしたか?
少女人形を人形としてではなく、生身の女子高生として捉えた写真を撮りたいと考えていました。今日はそのイメージどおり、実在感や生きている感じを写真に表せたのかなと思います。今回の企画に参加するにあたって球体関節人形の写真をいろいろ見てみたのですが、暗いイメージのものが多いと個人的には感じました。そこで、自分が写真を撮るならば、同じようなことをやってもつまらないと思い、今回のイメージを定めたんです。

――学校というロケーションについてはどう感じられましたか?
タイトルが『制服を着ていない女子高生に意味などない』なので、それに適したいいロケーションだったと思います。思春期の曖昧さや憂鬱さなど、芽々木さんの少女人形が持つ背景にもぴったりはまっていたのではないでしょうか。

――ありがとうございました。

芽々木インタビュー

――本日行ったコラボ作品制作の感想を教えてください。
嵯峨さんが私の少女人形から思った以上にいい世界観を引き出してくれたことに感動しました。人形たちが私の想像とはまったく違った表情を見せていて、写真によって作品の印象はこうまで変わるのかと驚きましたね。特に驚いたのが、2体を使ったコラボ作品のなかの1枚です。顔が写っていないにもかかわらず、人形の感情が伝わってくる気さえしました。

――被写体となった人形作品づくりで特にこだわった部分はどこですか?
人間が好きな人も獣が好きな人も、かわいいと感じられる作品にすることです。例えば今回の人形は、足は肉球のついた獣の足で、手は普通の人間の手です。そのように人間部分と獣部分をバランスよく組み合わせて、誰もがかわいがって楽しめる作品にしようと努力しました。今回は初めて型を取って人形を量産したのですが、その作業は難しかったですね。石膏の型がもろいので慎重に取り扱う必要があって、6体の人形をつくるのに3~4カ月かかりました。

――今回の作品に込めたテーマはありますか?
なにかしら、自分の心の傷や葛藤のようなものが反映されていると思います。特にそれらをテーマだと意識したわけではありませんが、やはり人形は作者の分身なので、自然と自分の人生が作品に影響を与えた部分はありますね。

――ありがとうございました。

嵯峨さんと芽々木さんのそれぞれに、コラボレーションによる作品制作を通して初めて意識した点や気づいたことがあったようです。
さて、次回はいよいよ完成した作品を見ながらの批評会を行います。クリエイター同士のコラボレーションの結果、いったいどのような作品が出来上がったのでしょうか。そして、その作品にクリエイターはどのような感想を抱くのでしょうか――。

第3回に続く

    UPDATE:
    クリエイターコラボレーション
    嵯峨倫寛×芽々木

    嵯峨倫寛×芽々木 Michihiro Saga × Memegi

    嵯峨倫寛(さが・みちひろ)
    1980年宮城県石巻市生まれ。東北学院大学工学部機械工学科卒。大学卒業後、(株)491アヴァンにカメラマンとして勤務。2013年よりフリーランス。広告媒体での撮影をメインにさまざまなジャンルで幅広く活動している。作品制作にも意欲的に取り組み、個展・グループ展を多数開催。直近では2017年4月に個展『There is』を「ギャラリーチフリグリ」にて開催。

    芽々木(めめぎ)
    宮城県仙台市生まれ。創造学園大学グラフィックデザイン学科卒業。2年ほどWeb制作会社に勤め、退社後、人形制作活動を行う。「ドールアート展2017 in うつくしま 8回全国創作人形コンクール」において特別大賞・福島県知事賞を受賞。2017年11月に東京ビッグサイトで行われる「デザインフェスタ vol.46」に参加予定。