嵯峨倫寛×芽々木

フォトグラファー×人形作家【第3回】批評会

異なる領域で活躍するクリエイターがコラボレーションしたとき、どのような作品ができ上がるのだろう――。
シリーズ「クリエイターコラボ企画」では、違ったジャンルのクリエイターがお互いの個性を刺激して、新たな作品をつくります。

今回コラボするのは写真家の嵯峨倫寛さんと、人形作家の芽々木(めめぎ)さん。ジャンルも個性も異なるクリエイター同士が取り組んだ企画会議から作品制作、批評会までの模様を、全3回に分けてお届けします。

第3回は、いよいよ完成したコラボ作品に対する批評会。人形作家と写真家が時間と情熱をかけてつくりあげた作品を鑑賞しながら、感想や今後の展望を語り合います。

コンセプトをいかに表現するか

8月初頭、仙台で人形作家×フォトグラファーのコラボ作品に対する批評会が開かれました。第2回「作品制作」で撮影した少女人形の写真作品たち。机の上に並べられた全9枚の作品を前に、各々が感想や込めた思いを語ります。

人間と人形の間にある存在

嵯峨:完成した作品を初めてご覧になった感想はいかがですか?
芽々木:まず、純粋にとてもカッコいいと思いました。当たり前ですが、これはプロの写真家の方にしか撮れませんね。本当に少女人形が生きているかのような実在感があります。まるで、彼女たちが生きる日常のワンシーンを切り取ったみたい。
嵯峨:少女人形を人形としてではなく、人間と人形の間にある曖昧な存在として撮影したかったので、それはうれしい反応ですね。コンセプトとして掲げたように、「制服によって記号的な価値を与えられている女子高生」を表現したかったので、そのイメージを念頭に置いて撮影に臨みました。
芽々木:少女人形を曖昧な存在として表現するために、レタッチで何か工夫された部分はあるのでしょうか?
嵯峨:それほど特別なレタッチはしていません。色合いを決めたり輪郭をぼかしたりしたくらいです。コンセプトを織り込み済みで撮影したので、撮影でつくったイメージをほぼそのまま活かしています。

ライティングで表現する女子高生のジレンマ

嵯峨:全体の印象はどうでしょう?
芽々木:撮影前に想像していたよりずっと明るい雰囲気に仕上がりましたね。人形の硬さが取れて、柔らかい印象になっていると感じました。特に(A)や(B)は、柔らかくて幻想的な印象です。

(A)

(B)

嵯峨:ライティングとレタッチで、かなり柔らかい仕上がりにしています。(A)、(B)ともに、逆光のライティングを使うことで、ふわっとした雰囲気をつくり出しています。
芽々木:そこにはどのような意図があるのでしょうか?
嵯峨:柔らかくて曖昧な雰囲気をつくり出すことで、女子高生の言葉にならない感情を描き出そうと試みました。
芽々木:思春期の曖昧さですね。
嵯峨:そういったコンセプトをうまく表現できたという意味で、今回の写真のなかでもこの2枚は特に気に入っています。ライティングや雰囲気のつくり方がうまくはまったと思います。
芽々木:(B)はとても幻想的ですね。
嵯峨:そうですね。後ろの女子高生が友だちにも、敵にも、他人にも見えませんか?
芽々木:従えているようにも見えます。
嵯峨:そういうふうにいろいろな受け取り方ができるのは、この写真のいい点だなと思います。

人形のキャラクターに寄り添った写真

写真で引き出す人形のキャラクター

嵯峨:芽々木さんは、どの写真が一番お好きですか?
芽々木:どれも好きですが、強いて言うなら(C)です。元々この子は気の強い印象になりすぎて、6体の少女人形のなかではそれほど好みではなかったんです。ですが、こうしてカッコよく撮影してもらったことで印象が大きく変わりました。この子が生来持つ雰囲気が写真映えしていて、非常に愛らしく思えます。

(C)

嵯峨:ヒーローっぽく写っていますよね。この写真も逆光ライティングで撮ったんですが、この子の場合は後光がさしているように見えます。芽々木さんの少女人形が持つキャラクターが、ちゃんと写真に表れているようでよかったです。
芽々木:キャラクターが表現されているという意味では、(D)が一番かもしれませんね。まさに小悪魔といった感じです。

(D)

嵯峨:「この子は一筋縄ではいかない性格だな」と見た瞬間に思って、それを表現することにしました。この子の巻き髪が心のひねくれを表しているように感じたんです。だから1本1本をはっきり写すために、ほかの子の写真よりもF値(像の明るさ)を絞って撮影しました。
芽々木:おかげでとてもよい写真になりました。この子のいたずらっぽい性格や気の強さといった個性が表現されています。
嵯峨:芽々木さんは、少女人形のキャラクターをつくる前に決めておくのではなく、制作しながら決められるんですか?
芽々木:はい。つくりながら性格を探っていきます。完成させていくに従って、作者である私も予想できないような個性が見えてくるんです。同じ原型から型取りをして複製しているので、顔の造形を調整したり化粧やウィッグを用いたりして、それぞれの人形のキャラクターを表現しています。

素直さを表現する方法とは?

芽々木:(E)はなぜベランダで撮影しようと思われたんですか?
嵯峨:この子が持つ空気感を表すのに適切だと思ったからですね。素直そうな見た目なので、自然光を用いてキャラクターを表現しようと思いました。

(E)

芽々木:確かにこの子は私のなかでも素直なイメージです。左側に扉を写したのにはどんな意図があるんでしょう?
嵯峨:構図として変化をつけるためです。雰囲気を出すために余白をつくり出したかったのですが、ただ空白にするとちょっと間が抜けた感じになってしまうので。
芽々木:なるほど。ちなみに(F)も見た目は派手で気が強そうですが、実は素直な性格なんですよ。

(F)

嵯峨:僕も似たような印象を感じていました。だから本を背景に撮影したんです。一見この子、本なんて読まなそうな外見じゃないですか? だからこそ、見た目と心のギャップのようなものが出ておもしろいんじゃないかと思ったんです。
芽々木:性格がしっかりと表されていますね。前髪が顔にかかっているのもミステリアスでいいですね。
嵯峨:雰囲気を醸し出していますよね。

顔をあえて写さない意図とは?

芽々木:今まで見てきた6枚の写真は組み写真(1つのテーマを何枚かで表現する写真)として撮られているんでしょうか? それとも1枚1枚で?
嵯峨:組み写真という意識は特にはありませんでした。ただし、コラボ作品3枚(G,H,I)を含めた9枚の写真はシリーズだと考えています。
芽々木:コラボの3枚(G,H,I)はどういった意図で撮影されたんですか?
嵯峨:顔をあえて写さないことで、僕らが表現しようとしていた「女子高生がひとくくりに捉えられているということ」を切り取れるのではないかと考えました。顔を出すと個性が一目でわかってしまうので、それをなるべく排除して匿名性を演出したかったんです。
芽々木:それぞれのポーズや配置にはどのような意味があるんでしょうか?
嵯峨:顔を見せずにいかにバランスよく配置するかを重視しました。だから、髪が長い子と短い子を組み合わせたり、人形のポージングに変化をつけたりしています。

(G)

(H)

(I)

作品制作の背景にあったもの

今回の新しい試みとは?

芽々木:嵯峨さんは、人形を撮影された経験はこれまでにありましたか?
嵯峨:ありませんでした。撮影してみて初めて気づくことがたくさんありましたね。
芽々木:それはどういったことですか?
嵯峨:例えば、人形は表情が変わらないということです。当然ですが人形は「笑って」と頼んでも笑ってくれない。だから、セッティングやポージングで表情を変えるほかないんです。もちろんそれぞれに個性はありますが、やっぱり基本的には物憂げな表情に見えてしまうので変化をつけるのが難しかった。結果としては、試行錯誤のかいあって、それぞれのキャラクターにあった表情をつくることができたと思います。
芽々木:確かに、それぞれまったく違った表情に見えます。
嵯峨:芽々木さんは今回なにか新しい試みはありましたか?
芽々木:同型の人形を複数体つくるために、型取りをしたことが初めての試みでした。また、外に持ち出して撮影されるということなので、全体の完成度を上げたり耐久性を高めたりといった部分に力を入れました。ただし、必ず1つ前につくった人形の反省点を次に活かしているので、作品づくりは毎回新しい試みのようなものですね。
嵯峨:完成度や耐久性を高めるとは、具体的にはどういった作業になるのでしょうか?
芽々木:人形一体一体の表情や身体の曲線の調整に、もっとも時間を費やしました。あとは、制服を少女人形の完成イメージに合わせてデザインから縫製まで行ったり、関節の壊れやすい部分に布張りをして補強したりしました。

球体関節人形と明るい写真

芽々木:今回、とても明るい雰囲気の写真になりましたよね。球体関節人形の写真ってほの暗い雰囲気のものが多いんです。だからこんなに明るい世界観でもマッチすることに驚きました。
嵯峨:確かに球体関節人形の写真は、人形自体が持つゴシックなイメージのためか、暗い印象のものが多いですよね。でも、今まで見たことのあるような写真を撮ってもつまらないと僕は思いました。そこで、あくまでそれぞれの人形から受ける印象を素直に表現していった結果、こういう写真になりました。
芽々木:そのおかげで、かなり印象的な写真になったのではないかと思います。ライティングの柔らかい空気感と球体関節人形がこんなに合うなんて。そういえば、縦長でつくられた作品と横長でつくられた作品があるのはどうしてなのでしょうか。
嵯峨:それは、アウトプットがWebだということを前提に工夫した部分です。Webで見たときに同じ方向だけだとつまらないので、変化をつけようと考えました。
芽々木:もし展示会をするにしても、縦横あったほうがメリハリがあっていいかもしれませんね。
嵯峨:なるほど。僕は展示会をするとしたら、もっとそれぞれの写真を大きく印刷したいですね。A0(841×1189mm)くらいに大きくして、人形が人と同じくらいのサイズになるように。それでコピーライターにキャッチコピーを入れてもらったりすると、おもしろそうだな。
芽々木:確かに等身大に近いサイズで見られたら楽しそうですね。

企画の総括とこれからの展望

今回のコラボの感想は?

嵯峨:今回撮影した少女人形たちって個別に名前はありますか?
芽々木:ありません。人の手に渡る想定でつくったので固定のイメージが定着するのを防ぐために、あえて名前はつけませんでした。人形を必要とした方本人が自分で名前をつけて、愛着を深めてほしいです。
嵯峨:芽々木さんって、人形に対していい意味で淡白な考え方をお持ちですよね。企画会議でも「人形は愛玩具だ」とおっしゃっていましたし。自分の制作物に余計な価値や意味をつけようとしていない。個人的にはその姿勢が非常に好ましいと思います。
芽々木:もちろん、人形づくりにおいてこだわりがないというわけではありません。人形の制作中は、とにかく造形や色彩など細部までこだわります。それこそ魂を吹き込むように。でも、それ以上の個性やストーリー性はあまり必要ではないと私は考えています。人形の個性や物語は持ち主が自由に想像し広げていくもの。幼少期に、私たちはそうして遊んでいましたよね? 人形の持ち主が子どもであれ大人であれ、その本質は変わらないと思います。
嵯峨:そう明言できてしまうのがとてもよいですね。だからこそ、こちらもアイディアを提案しやすかったですし、現場でいろいろなことができたと思います。
芽々木:私は逆に、嵯峨さんが積極的にアイディアを出してくださったので大変ありがたかったです。
嵯峨:大変ではあったのですが、非常におもしろい経験でした。

次回作の構想と挑戦

嵯峨:今後つくりたい作品はもう決まっていますか?
芽々木:いろいろなものに挑戦したいですが、1つはポーズ人形(関節が動かない固定人形)です。
嵯峨:なぜポーズ人形がつくりたいのですか?
芽々木:現実に対して造形的に嘘のない作品がつくりたいからです。関節が球になっている球体関節人形は、どうしても実際の人体とは造形的に異なりますよね。もちろんその代わりに自由に動かせるなどの魅力はあるのですが、今は人体構造的に嘘のない造形をつくり込みたい気持ちが高まっているんです。もっともっと現実の人間のリアルな造形や質感に近づけたいです。そうやって造形力を高めて、積極的にいろいろな人形制作に挑戦したいですね。
嵯峨:なるほど。いろいろな作品づくりに挑戦したいという気持ちには僕も非常に共感します。
芽々木:嵯峨さんは仕事でも作品づくりでも、本当に多様な写真を撮られていますよね。
嵯峨:そうですね。どの撮影も本当に楽しいですし、それぞれに挑戦はありますが、まったく満足はしていません。より大きな満足感が得られる撮影、自分の限界を引き上げる撮影にどんどん取り組んでいきたいです。
芽々木:私も今回嵯峨さんとのコラボに挑戦したことで、人形づくりの課題や今後目指したい目標が見えてくる部分がありました。ありがとうございました。
嵯峨:こちらこそ、ありがとうございました。

写真家と人形作家。ジャンルも個性も異なる2人のクリエイターのコラボによって誕生した作品はいかがだったでしょうか?今回のコラボレーション企画では、それぞれのクリエイターに新しい撮影方法や制作テーマへのトライがありました。個人でつくる作品とは一味違う新しい作品を生み出した体験は、これからの作家活動に活きるよい刺激になったようです。「挑戦心」を掻き立てられたお2人の、今後の活躍が楽しみですね。

嵯峨さん、芽々木さんをはじめ取材・撮影・作品制作にご協力いただいた皆様、本当にありがとうございました!

    UPDATE:
    クリエイターコラボレーション
    嵯峨倫寛×芽々木

    嵯峨倫寛×芽々木 Michihiro Saga × Memegi

    嵯峨倫寛(さが・みちひろ)
    1980年宮城県石巻市生まれ。東北学院大学工学部機械工学科卒。大学卒業後、(株)491アヴァンにカメラマンとして勤務。2013年よりフリーランス。広告媒体での撮影をメインにさまざまなジャンルで幅広く活動している。作品制作にも意欲的に取り組み、個展・グループ展を多数開催。直近では2017年4月に個展『There is』を「ギャラリーチフリグリ」にて開催。

    芽々木(めめぎ)
    宮城県仙台市生まれ。創造学園大学グラフィックデザイン学科卒業。2年ほどWeb制作会社に勤め、退社後、人形制作活動を行う。「ドールアート展2017 in うつくしま 8回全国創作人形コンクール」において特別大賞・福島県知事賞を受賞。2017年11月に東京ビッグサイトで行われる「デザインフェスタ vol.46」に参加予定。