建築家 宮崎晃吉

“最小文化複合施設”HAGISOを築く 【第2回】

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クリエイティブによるソーシャルグッドには、どんな可能性があるのだろう――。
シリーズ「ソーシャルグッドで社会を動かす」は、クリエイターによる、クリエイティブを手段とした社会貢献活動をご紹介する企画です。

第2弾にご登場いただくのは、東京都台東区谷中の最小文化複合施設「HAGISO」を運営する建築士、宮崎晃吉さん。
本企画では、建築士である彼のソーシャルグッドな取り組みを全3回に分けてご紹介します。

第2回では、宮崎さんの思う建築家としてのやりがいや、HAGISOが持つさまざまな機能のお話、さらに今後の展望などについて伺いました。

宮崎晃吉の建築家としてのやりがい

リノベーションスクールからは刺激を受けている

――宮崎さんはリノベーションスクールにも関わっているんですよね。
はい。リノベーションスクールは「衰退著しい地方が本来持つポテンシャルを引き出し、それを発揮させつついかに新たなまちとして再生させるか」を考える場なんですが、僕はそこでユニットマスター、簡単にいうと講師を務めています。参加するたびに自分自身のなかで発見がありますね。

――具体的にどんな発見があるんですか?
自分がやってきたことを再確認できるということですね。「僕がやってきたのはこういうことだったよな」と相対化しながら再確認できるいい機会なんですよ。
それに、リノベーションスクールに行くと刺激を受けて、自分でも何かやりたくなるんです。「周りに負けられないな」って思うし、「先におもしろいことをやりたい」って気持ちになる。リノベーションスクールに参加していなければ今のように建築家という仕事の域を超えた事業を起こす勇気もなかっただろうし、hanare(※)もつくらなかったと思います。
※谷中のまちをホテルに見立てた地域一体型の宿泊施設。第3回で詳しくご紹介します。

醍醐味は、見えないニーズを掘り起こすこと

――宮崎さんの建築家としてのやりがいを教えてください。
「ニーズがないところからニーズを生み出す」という部分に醍醐味を感じます。よく「デザインは問題解決で、アートは問題提起だ」という言い方をしますよね。つまり、クライアントワークを行うデザイナーは、基本的に仕事を待っている状態だと思うんですよ。でも、それじゃあ僕はおもしろくない。
前回お話しした安藤忠雄さんの話にもつながるんですが、彼は誰にも頼まれていないことを勝手にやるでしょ。その姿勢を貫き通すことって、すごく大事だと思うんですよ。単純に「そうありたい」と思っているというのもあるけれど、その姿勢を貫くことで建築物の機能を最大化できるなら――ひいてはまちの活性化に寄与できるなら、それに越したことはないじゃないですか。
建築家とかデザイナーって顕在化していないニーズを発見する能力があると思うし、さっき言ったように、そういうニーズを掘り起こすところにおもしろさがあると思うんですよ。だから、それを活かして自分から仕事をつくっていくことが個人的には大事なんじゃないかなと。そうしないと、下請けばかりの仕事になってつまらなく感じてしまうと思います

 

公共建築物とHAGISOの決定的な違い

“のっぺらぼう”な建物はつまらない

――HAGISOを運営するうえで大切にしている考え方はありますか?
どれだけ多くの人に「ここは自分の居場所なんだ」と思ってもらえるか、という視点を大事にしてますね。
前回、「東京はフォーマルな街で、人が建物に収納されているように感じる」というお話をしましたが、これは「住む」という目的に限らず、建物を「利用する」場合にも同じことがいえるんですよ。公共建築なんかはHAGISOとは真逆で、“みんなのための場”ということを意識しすぎるあまり、妙な平等主義が生まれている気がします。特定の誰かが主体的に空間を利用することを良しとしない、画一的で“のっぺらぼう”な建築が多いと思うんですよね。誰もそこを自分の場所と捉えていないから、利用者は単なる消費者もしくは受益者になってしまうんです。それじゃあつまらないじゃないですか。

 

HAGISOに内包されたインフォーマルな機能

リスクを背負うからこそ“HAGISOらしさ”が出る

――HAGISOが最小文化複合施設として内包している機能について教えてください。
いろいろありますが、まずはギャラリーの役割を持つ「HAGI ART」。「日常生活に驚きと気づきをもたらす」というコンセプトで、アーティストの作品を定期的に展示しています。
喫茶店の「HAGI CAFE」では「パフォーマンスカフェ」という取り組みを行っていますね。これは「居間theater」というパフォーマンスプロジェクトの一環で、メニューを注文すると、パフォーマーがお客さまの目の前で数分間のパフォーマンスを披露するんです。
ほかにも、さまざまなアーティストを呼んでライブを行う「谷中音楽室」や、「HAGI SiKi」という音楽と季節の両方を楽しめるイベントも開催しています。

――仕掛け人の宮崎さんから見て、最も“HAGISOらしい取り組み”はどれだと思いますか?
「HAGISOじゃなきゃできない」という意味ではパフォーマンスカフェですね。ワイワイ盛り上がることもあれば、ぜんぜん注文が入らなくて静かなこともあるんですよ。なかにはパフォーマンスカフェの存在を知らずに来てくださる方もいて、近くでパフォーマーが踊ってるあいだ、下を向いてひたすらカレーを食べてる、なんてこともあります。
いろんなお客さんが来るからこそ、“ちょっとした緊張感”が生まれる瞬間があるんですよね。「こんな店にはもう二度と来ない」って思うお客さんもいるかもしれないけど、それはそれで1つの「人生のスパイス」になっていいんじゃないかなと思ってます。

――スパイスになるとはいえ、少々リスキーじゃないですか?
イベントはどれもリスキーですよ。だからいつも緊張してます。音楽イベントを開催するときは「うるさい」とクレームが来るんじゃないかと不安になるし、さっき言ったカレーのお客さまの話ではないけれど、僕らホストとの関係が壊れてしまうこともあります。だから無事にイベントが終わったときはいつもホッとしますよ。
ただ、あえてリスクを抱えることで“インフォーマルな状況”にはみ出していくのがHAGISOらしさだと思うんですよね。ありふれたサービスを提供する店と、それを享受するお客さん――そういうお決まりの関係性を逸脱することが、“のっぺらぼう”な施設にならないために必要な取り組みだと思っています。

 

日常×非日常で新たな可能性を生む「HAGI ART」

展示無料のギャラリーで、あらゆる層を呼び込む

――HAGISOには「HAGI ART」というギャラリーがありますよね。これまでで印象に残っている展示はありますか?
銭湯の研究をしている文京建築会ユースが行った「ご近所のぜいたく空間 “銭湯”」展はおもしろかったですね。ご存知のとおり銭湯は急速に減少しているので、彼らはほとんど遺骨集めしかできない状況なんですが、銭湯の記憶を残すために地道に活動に取り組んでいるんです。
今、東京にはペンキ絵師さんが2人しかいないんですよ。1人はおじいちゃんで、もう1人はまだ若い女性。田中みずきさんという方なんですが、その人がHAGISOに来てライブペインティングをしてくれました。3時間ぐらいでバーっと壁に富士山を描いてくれて、すごい迫力でしたね。

――HAGI ARTで展示される方とは、どのようにつながるんですか?
もともとの知り合いの場合もありますし、面識のない方がメールでプロポーザルを送ってきてくれることもあります。最近は後者のほうが多いですかね。もちろん僕から「ちょっとやってくださいよ」とお願いすることもありますよ。

――HAGI ARTでの展示は基本的に無料だそうですが、HAGISOの運営とのバランスはどう考えていますか?
カフェの収益が基本で、ギャラリーで運営費を捻出するつもりはないんです。むしろ、いろいろな作家さんにとって展示しやすい環境であることがメリットなんですよ。毎回違う層のお客さまをカフェに呼び込んでくれますからね。

――違う層の人たちというと?
やっぱり、“場所”って独特の色を帯びていくものだと思うんですよね。特定の種類の人たちが集まりがちな場になっていくというか。極端だけど、例えばロリータ系女子が集まるスイーツショップとか、サードウェーブ好きな人が集まるカフェとか、場所によって集まる人が限定されるじゃないですか。
一方、HAGI ARTの展示はテーマが多種多様なので、ファインアートが純粋に好きな人、社会的なことに興味がある人という具合に、場所に限定されない異なる興味を持った人たちが集まってくれるんです。

――いろいろな人が集まると、さらに思いがけない出会いが生まれそうですね。
HAGI ARTは“自分にまったく関係ないものに出会うチャンス”を生み出す場だと思ってます。例えば現代アートって、普通は現代アートギャラリーで展示されますよね。わざわざそれを鑑賞しようと美術館まで足を運ぶのは、現代アートのファンぐらいだと思うんです。
でも、HAGISOではカフェやライブイベントと並行して展示を行っているから、現代アートの存在すら知らず、ただただケーキを目当てに来てくれた人が、たまたま出会った現代アートに興味を持ってくれる可能性が生まれるんです。当然、絵を見ても違和感を覚えるだけで終わることもあると思いますよ。でも、そもそもそうした機会がなければ、世界を広げる可能性もゼロになってしまうんですよ。だから僕は、“非日常的なものが日常的な場所にあること”が大切だと考えているんです。

 

 

宮崎晃吉が見据えるHAGISOの未来

ゴールを描くのではなく、連鎖的にどこまでいけるか

――HAGISOの最終ゴールはありますか?
目的地は特にないですね。こういうプロジェクトは人との出会いがないと絶対生まれてこないと思うんですよ。HAGISOも、宿泊施設のhanareも、今度新たにつくるTAYORIというお惣菜屋さんも、すべて出会いがなければ実現できなかった。
だから、「僕が何をしたいか」はあまり意味を持ってこないと思ってます。ゴールを描くというよりは、「連鎖的にどこまで到達できるのか試してみたい」という思いがあります。そういう好奇心のほうが強いですね。

――ありがとうございました。

第3回につづく。

    UPDATE:
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    宮崎晃吉

    宮崎 晃吉 Mitsuyoshi Miyazaki

    宮崎晃吉(みやざき・みつよし)
    1982年、群馬県生まれ。株式会社HAGI STUDIO 代表取締役/建築家/一級建築士/東京藝術大学 建築科 非常勤講師。
    東京藝術大学大学院修了後、アトリエ系設計事務所での勤務を経て、2011年の東日本大震災をきっかけに退社。2013年、解体予定だった東京都台東区谷中のアパート「萩荘」を改修し、最小文化複合施設「HAGISO」として甦らせる。現在はフリーランスの建築家として活動するほか、全国各地で開催されるリノベーションスクールの講師を務め、豊かなまちづくりに貢献する。